台湾との政治対話を無条件に進めない意思表示
このファーラムに先立ち、習が10月6日にAPEC首脳会議の場で、台湾前副総統の蕭万長・台湾両岸共同市場基金会栄誉董事長と会見した。その際に政治対話について次のような踏み込んだ発言をしていた。
両岸の政治的相互信頼を増進し、共同の政治的基礎を打ち建てることが、両岸関係の平和発展確保のカギである。長期的に見て、両岸に長期にわたり存在する政治対立の問題は結局一歩一歩解決しなければならない。これらの問題を次の代に送ってはならない。われわれはすでに何度も示している。一つの中国の枠組みで両岸の政治問題は台湾と平等な話し合いを進め、情にも理にもかなった手配をしたい。両岸関係における処理すべき事務に対しては、双方の主管部門の責任者が会って意見交換すればいい。
張自身には台湾との関係を方向づける権限はなく、張の発言が中国と台湾の政治対話に積極的な姿勢を示したのはこの習の発言に沿ったものである。
他方、張は「一つの中国」に2度も言及し、「動揺させ、損なうことはできない」「緩めることのできない最低ライン」と位置づけたことは、緊張感を増しているようにすら感じられる。政治対話への積極性とは一転、政治対話を無条件で進めるものではないという中国側の意思を示している。初の民間政治交流の場での挨拶だけに、期待感は強かったかもしれないが、「一つの中国」発言はこれに水を差した。
「一つの中国」とは、台湾は中国の不可分の領土であり、中国は一つであるという主張であるが、中台間でその解釈は異なり、争点となってきた。そのため、最近では棚上げされ、実務的な交流を進展させていた感がある。
なぜ「一つの中国」に言及したのか
政治対話のきっかけになるかもしれない場で、張が「一つの中国」を2度も持ち出したこと、そしてそれを『人民日報』が報じたことは、なんらかの意味があると考えるべきだろう。
一つには、10月12日に外交部が、欧州議会が10月9日にEUと台湾の経済貿易関係の決議を採択したことを次のように非難している。「民間の経済貿易交流の展開に異議はない。しかし、公的関係の発展には反対する。中国とEUの関係の大局から出発し、一つの中国の原則をしっかりと守り、台湾に関する問題を慎重に処理し、台湾と公的交流を進めない、いかなる公的性質を有する協議に調印しないことを希望する」。そのため、張の発言はEUとの公式な関係を深めようとする台湾に対し、クギを刺す目的があったとみることもできる。それならば、個別事案への対応で出てきた「一つの中国」であり、中国と台湾の関係改善に大きな影響はないかもしれない。