2024年5月4日(土)

BBC News

2024年4月22日

大井真理子、ビジネス記者

日本で高齢少子化による人手不足が叫ばれて久しい。果たして人工知能(AI)は日本の人手不足を遂に救えるのだろうか。

日本は完璧であることにこだわる国だ。傷んだ野菜や果物が売れ残りがちだ。

大阪王将のような冷凍餃子のスペシャリストにとって、不完全なパックを売ることはタブーに近い。

しかし、新型コロナウイルスのパンデミックの影響で需要が爆発的に伸たため、親会社のイートアンドホールディングスでは、餃子一つ一つを検品するだけの人手が足りなくなった。

そこで同社はテクノロジーに答えを求めた。昨年1月に、AIカメラと最新技術を導入した新工場を開設。このカメラは、製造ラインで不良品の餃子を検知することができるという。

現在、この工場は毎秒2個の餃子を作ることができる。他の工場の2倍の速さだ。

「AIを導入したことで、生産ラインの人員を約3割減らすことに成功」したと当社の半田景子氏は言う。

今年9月には、大阪王将の職人技術を完全コピーした調理ロボット「I-Robo」を西五反田店に導入した。職人の育成には時間がかかるため、人手不足の解消にもつながるという。

日本の人口減少は加速し続けるとみられている。

人口は13年連続で落ち込み現在は1億2500万人弱ほど。労働人口は2040年前に12%減り、1100万人の働き手不足になると予測されている。

アジア第2位の経済大国であるとともに、世界一の高齢社会の日本では、65歳以上の割合は29.1%を占める。

出生率も世界最低水準で、昨年生まれた新生児は75万8631人。統計が始まった19世紀から最少だ。

長年の日本政府による少子化の取り組みは、成功しているとは言いがたい。岸田文雄首相は昨年、社会機能を維持できるかどうかの「瀬戸際と呼ぶべき状況に置かれている」と発言した。

AIが世界を席巻しつつある中、仕事を奪われるのではないかと懸念がある。その一方で日本では、人手が足りない分野の仕事を補ってほしいと言う意見が出ている。

高齢化が特に進んでいるのは農業だ。昨年の農業従事者の平均年齢は68.4歳だった。ここではAIはすでに活用されている。病害虫や雑草を早期に検知し、予防する役割を担っている。

日本農薬が開発したスマートフォンアプリ「レイミーのAI病害虫雑草診断」では、スマートフォンで弱った作物を撮影すると、AIが診断をし、おすすめの農薬を教えてくれる。

同社の谷口健太郎さんは、「ユーザーさんに使ってもらうと7割、8割くらいの正確率だなという感じです」と話した。

「専門家よりは劣るけれど、知らない農家さんよりは良いという感じです」

一方で、AIではできないこともあるという。

「やればやるほど、人間の技術指導員の人の優秀さが分かってですね、専門家は全体の作物のたたずまいとか、雰囲気とか、周りの環境の状態から、これは何病ですと判断するんですが、そういったところまでAIに落とし込むことはできないんです」

「ただ専門家の方が減ってきていますので、専門家に頼らなくても、7割8割当たるよというのであれば使えるんじゃないかなと」

宮城県石巻市のたかはし農園の高橋健輔さんは、このアプリを使って3年ほどたつ。高橋さんは、AIは農業の合理化を助けると語った。

「農業就業人口は高齢化でジェットコースターのように減っているんですけれど、農業総生産額は増えています。家族で作っていく時代は終わったというか、地域の中で組織にするとか、マネジメントする時にツールが必要になり、アプリもその一つかなと思います」

高橋さんによると、年代の違いでAIなど新しい技術に抵抗感を持つ人もいるという。だが、AIは効率性の向上に役立っていると考えている。

「農薬散布を一度ドローン(無人機)でやったら手散布には戻れないのと同じです。必然的に変わってきます」

AIは英語教師になれるか

では、常に人手不足に悩んでいる教育分野ではどうだろうか。

日本政府は英語話者を増やそうと努力を続けているが、効果的に英語を話せる教師が不足しているため、英語力は常に下位にランクされている。

英語教師不足を補うため、早稲田大学発のスタートアップ企業、エキュメノポリスはAIを使った会話ツールを開発した。現在、文部科学省の取り組みの一環として、50校で導入されている。

そのうちの一校である成田国際高校では、昨年末の3カ月間、生徒たちに家庭学習の一部としてこのオンラインツールを利用してもらった。

教師の滝口翔子さんは、「自分のレベルに合わせた会話ができるように、AIが勝手にこの子だったらこれくらいの回答ができるだろうと判断してくれて、次の質問は生徒によってそれぞれ違う質問がされていく」と説明した。

「一対一で生徒と時間を取るのが物理的に難しい中で、家庭学習の一環として、それぞれのレベルに合わせたものをできるというのは、メリットが高かったです」

このツールでは、アバターとの会話後、発音、文法、流暢(りゅうちょう)さ、語彙(ごい)の豊かさなどの六つのエリアで結果が出る。

実際に利用した生徒の葛瀚元さんは、「苦手な分野が分かりやすくて、勉強が効率よくできると思います」と感想を述べた。

しかし、人間の先生とのオンラインレッスンの代わりに、AIとの会話を選ぶかという質問には、「AIじゃない方を選ぶ」と話した。「普通の会話ができる」からだという。

滝口さんも、「話すスキルは上がるけれど、人間相手とは違う不自然さが残る」と、葛さんに同意した。

「表情を見たり、その日の体調を知っていたり、声色とか普段を知っているからこそ、本当はこう思っているのかなというバックグラウンドがないので、会話が機械的に進んでいくなと感じました」

では、AIが英語の先生になる可能性はあるのだろうか?

同校の福水勝利校長は、「練習という意味で家庭学習の一環で使うことはありだと思いますが、これが授業に取って代わる、生身の人間に代わるっていうことはあり得ない、あっちゃいけないと思っています」と指摘した。

期待が高まる一方で、警告も多いAIだが、日本の政府機関の実験はすでに始まっている。

神奈川県横須賀市では、少子高齢化に伴う職員数の減少に対応するため、米「オープンAI」が開発した対話型AI「チャットGPT」を導入。文書生成やその要約、ブレインストーミング、表計算ソフトの関数の作成などに使用しているという。

同市の太田耕平さんは、「大量の文書を扱っており、文書の作成には多大な時間と労力がかかるため」、導入を決めたと話した。

「時間削減効果としては、実証実験の段階で、全体で少なくとも年間2万2700時間あると算出しています」

行政の非効率を克服するため、2021年に発足した中央のデジタル庁でも、AIを職員のトレーニングに活用している。

同庁の楠正憲統括官は、「我々はやりたいことがいっぱいあるんですけれど、全く人材が追いついていない」と語った。

「これまでトレーニングがおよばなかったところも、AIが入ってくることによってキャッチアップが楽になって、これまでできなかったデジタル化が進むのではないかと期待しています」

また、AIをどう使っていいのか分からないという日本企業が多い中、「デジタル庁ではこんな感じでやっていますというのを広く伝えていきたいなと思っております」と語った。

しかし、今ある業務をAIで自動化しても公務員の総数を減らす話にはならないという。

決して変化のスピードが速いとはいえない日本だが、AIに関しては他国と比較すると柔軟に受けている。

それは、ロボットから女性、高齢者、外国人労働者まで、高齢化と人口減少という二重苦に取り組むために、10年以上にわたってありとあらゆる解決策を検討してきたからだ。

AIは労働力の効率化に役立つかもしれないが、人間の労働者に取って代わるには程遠い。

(英語記事 Can AI help solve Japan’s labour shortages?

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cl40gmd8053o


新着記事

»もっと見る