2024年12月8日(日)

古希バックパッカー海外放浪記

2023年6月18日

『2023.2.4~4.28 83日間 総費用75万円(航空券24万円含む)』

異次元の少子化対策でも人口減は不可避

 日本政府は“異次元の少子化対策”を掲げ、国会の議論もいかにして財源を確保するかに集中している。しかし筆者は少子化対策の効果には懐疑的である。出産、子育て、教育といった分野にどれだけ税金を投入しても人口減少は避けられないというのが過去半世紀世界の先進国が例外なく経験した歴史の法則であろう。

 自国民の出産による人口増だけでは人口減少は止まらないという“不都合な真実”に日本は与野党ともに目を背け、“少子化対策”により人口減を食い止められるという幻想に捉われている。
欧州、豪州、米国など先進諸国を歩いてみると移民を選別して受け入れることで労働力人口を確保して、総人口を漸増させながら持続的経済成長を実現するという政策が共通していることに気づく。

 豪州が第二次世界大戦後安全保障と経済発展の観点から国是として一貫した移民政策を堅持して大戦当時の700万人から70年間で目標の2500万人を達成したことは2018年11月18日付の本稿で紹介したとおりである(『白豪主義から多文化主義国家になるまで、オーストラリアに学ぶ『移民政策』(上)』)。

田舎町クリントンからゴアに向かう国道1号線(通称プレジデント・ハイウェイ)を北上してたら南下してきたNZ南北縦断中の同年輩サイクリストに遭遇しエール交換

EUの“勝ち組”国家は移民が経済成長の原動力

 3月25日。カイラキ・ビーチ。デンマークから来たナイスカップル。彼らは昨年高校卒業した18歳。大学進学前にギャップ・イヤーとして1年間海外旅行して見聞を広めたいという。

 デンマークでは大学は学費無料、学生寮も格安、しかも大学入試は心理学科など人気コースを除けば高校の成績証明書を提出すれば無試験とのこと。男子は建築学科志望、女子はバイオ工学を専攻して新薬の開発に貢献したいと溌剌と将来を語る。

 教育制度のみならずデンマークは高度福祉国家として知られるが、安定した経済成長が財政基盤を支えているという。デンマークは現在人口590万人であるが経済成長を支えているのは移民労働力であるという。そのため政府は最近移民受入条件をさらに緩和したらしい。

 4月4日。マーフェルズ・ビーチのキャンプ場。隣人はハイエースを改造した中古キャンピングカーで周遊しているオランダ女性。

 彼女曰く、オランダの人口は70年前には1000万人だったが、現在では1700万人を超えているという。先進国としては驚異的な人口増加率である。オランダでも出生率低下が著しいので人口増加の要因は移民の受け入れという。アムステルダムの下町にはインドネシア料理やギリシア料理など庶民的なエスニックレストランが並んでいたことを思い出した。

 EUの拡大に伴いEU経済を牽引したドイツ、フランス、オランダ、ベルギーなどは東欧・中欧・南欧などのEU域内から積極的に労働者を受け入れてきた。さらに難民受入れも人口増の要因となっている。

NZが直面している深刻なオーストラリアへの労働力の流出

 NZは福祉国家であり世界幸福度ランキングではベストテンの常連。日本と比較して遥かに子供を産みやすい環境。そんなNZでも2020年の特殊合計出生率は1.6しかない。

 他方で深刻なのは専門人材・熟練労働者のオーストラリアへの流出である。政府系研究機関は2023年に最大12万5000人がオーストラリアへ流出すると予測している。経済規模と労働市場が大きく平均賃金が30%も高いオーストラリアへの人材流出が止まらない。

 3月9日。クリントンという田舎町の救命救急士K氏のお宅に泊めてもらった。K氏夫妻は口を揃えて労働力不足がNZの喫緊の課題と強調。近年アジアからの移民が増えているが中国人でもインド人でも優秀な若い人は大歓迎と。NZの若者や働き盛りの成人層はオーストラリアへ流出しており元々の労働力不足が更に深刻になっていると懸念。

 K氏が関わっている医療現場では医師・看護師は慢性的に員数不足。資格を持った人材が高給のオーストラリアに流れる。NZとオーストラリア間にはフリー・パス協定があるので労働力移動は完全に自由なので流出は止められない。ちなみに夫婦には一人娘がいるが大学卒業後オーストラリアで就職して戻る気配はないという。

 3月21日。ラカイァ河畔のモーター・キャンプ。終日雨。ゲームルームで大学生の姉と高校生の弟と父親が賑やかにビリヤードの勝負をしていた。後で父親のラリーと話した。妻とはとっくに離婚しており、今回は普段別居している子供たちとキャンプ旅行していると。ラリーは長年オーストラリアで働いて今年65歳で定年退職して帰国したばかり。そんな事情で長年離れていたNZの親類や友人を子供と一緒に訪問するセンチメンタル・ジャーニーらしい。


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