2024年4月18日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2013年12月3日

 政治家は、外国の情報機関が彼らをスパイしようとしていることを前提にすべきである。メルケルらは、友人をスパイするのは許されないというが、イスラエルは米国をスパイしており、仏は米国などで大規模な産業スパイ作戦を展開した。米国はNATO条約で 同盟国を防衛する約束しており、同盟国が何をしようとしているか、知ろうとするのは正当である、と米国人はいう。

 これらの議論には一理あるが、他方、同盟国間の関係が基本的な信頼と相互尊重に基づくことを無視している。これが壊れたときに修復するのは大変である。英国では時折米国も情報収集の対象とすべきか、議論になるが、常にその考えは却下されてきた。道徳的な理由ではなく、見つかった時のコストが収集された情報の有益性をはるかに凌駕するからである。

 今や政治家のみならず一般人も盗聴対象であるので、見つかった時の損害はより大きくなっている。インターネットや移動通信は便利であるが、プライバシー保護と両立しない。

 最近まで、プライバシーと情報機関についての問題は先送りされてきた。これは短期的には頭痛の種だが、長期的には米政府が情報機関活動の範囲の問題に取り組むことは良いことだ、と述べています。

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 事件は、同盟国であっても諜報の対象になる、という冷厳な事実を改めて突き付けています。ただ、ラックマンが言うように、それは同盟国間の信頼関係を傷つけるものであり、暴露された時には、情報収集で得られる利益より損害が大きくなる可能性があります。米国も止める方向にいくと思われます。しかし、今のやり方は、電波情報を真空掃除機のようにかき集め、その後、それを分析するやり方であり、どういう方法で首脳の携帯電話を盗聴の対象から外すのか、技術的に問題があります。また、フランスは、一般の電話傍受を控えることを提起していますが、それは電波情報収集をやめることにつながるので、対テロ情報収集との関係などで、大きな問題があります。そして、プライバシー侵害に対する各国の考え方を調整することが出来るかどうかが課題ですが、なかなか難しい気もします。結局、ヨッフェの言うように、カウンター・インテリジェンス措置をとるということになるのでしょう。

 当局による情報収集は、安全保障上必要である一方、過大なプライバシー侵害をすることは、避ける必要があります。何が過大かは、国民の代表である議会が情報機関統制の一環として決めることです。日本もインテリジェンス重視の方向に動いており、安全保障上の必要性とプライバシーとの調和がますます重要な課題となっていますが、日本では、プライバシー偏重、情報収集への忌避感が強いことが懸念材料のように思われます。

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