渡部氏は取材後に数字として出ているうつ病患者数について「医者の診断を受けた人の数であり、予備軍はその5~6倍になるという推測がある」と指摘し、企業は早期発見となる取り組みを本格的に行うべきと強調した。
また、精神科医の佐野秀典医師は「昔でいう自律神経失調症なども、うつというカテゴリーに入ってきます。大うつ病というコアな円を描くと、その周囲に抑うつ状態や双極性、その他の症状の円が重なり、それらを合わせて大きな円になっているのが、いま問題視されている『増大するうつ』といえるでしょう。この円が膨張しているわけです。うつというとらえ方が広がったことが数値的な増加を裏付け、現象的には働く人の抑うつが増えていることが、うつ病蔓延時代という社会的問題に結びついていると考えています」と語っている。
精神科医とは違う診療がある
取材は精神科医だけにこだわらず話を聞きにいった。うつ病と気が付く前に体の不調を訴え循環器科、内科を受診する人は多い。その流れから、うつ病を見るようになったという石蔵文信・大阪樟蔭女子大学学芸学部教授は「治療にあたった患者さんの職場復帰率は90%以上。初診から2週間で方向性を見出すのが私の治療法です」という。
その手法を聞くと「メンタルインターベンション(危機介入)です。初診で来院したら1日、3日、5日後に電話をかけて状況を聞きアドバイスをします。状況によっては7日、10日後にも行い、2週間後に再診してもらいますが、その段階で、ほとんどの人が改善しています」
「うつばかりに気をとられていますが、現状は不安障害が多い。いてもたってもいられない焦燥感でいっぱいになっている。だから、聞いてほしいことがたくさんある。こちらからではなく患者さんからの電話も少なくない。それには、できるだけ早く応答してあげることで薬の何倍もの効果があります」
一方、内科医の芝山幸久医師は「患者さんは、多様な要因を経て辛くて支障をきたしているから来院してきます。医者として接するのはそこからです。初診段階で何が問題だったのか、どうして具合が悪くなったのか経緯を見極めるのは難しい。要因も対処法も人それぞれで異なります。まずは原因の究明よりは、今の辛さを取り除いてあげることに注力します。同時に、うつ病だとすぐに断定してしまうことは危険な面もあると考えています」と内科の立場での診療について語ってくれた。