2024年4月25日(木)

うつ病蔓延時代への処方箋

2014年1月15日

カウンセリングも有効な治療法のひとつ

 臨床心理士の取材は、説得力のある話が多く聞けた。医師とは異なるアプローチがあり、独自の考え方は参考になる。岩壁茂・お茶の水女子大学大学院准教授は、英国の研究からうつ病を引き起こす3つのライフイベントを紹介してくれた。

岩壁茂・お茶の水女子大学大学院准教授

 「最初がloss(喪失)です。大切な人を失う辛さや、夢、希望を失うことなども含まれます。次にhumiliation(屈辱)です。リストラは屈辱的ですし離婚も当てはまります。他人は裕福なのに自分だけ貧しいと思うこと、これも社会的な比較から起こる小さな屈辱といえます。最後がentrapment(罠にかかる)です。この仕事は大嫌いだが、住宅ローンがあるし家族を支えなくてはならない。転職したら今の給与はもらえない、苦しいけど辞められない、など身動きができない状態です」

 どのようなタイプの人が抑うつ状態になりやすいのか、それは感情の調節が苦手な人だという。「会社で上司から怒られた時、誰もが落ち込みますが、そんな時は少し気持ちを切り替えて人生を俯瞰して今の自分を冷静に見るとか、母親に電話して気持ちを落ち着ける、スーパー銭湯に行き体を休めるなど、感情を調整することで立ち直れる。ところがうつ症状に陥りやすい人は、このような感情調整がうまくできません」

 ではどのようにしていけばいいのか。「それは他者との触れ合いの中で学ぶのです。例として言えば、幼い時のことを思いだしてください。走って転び膝を擦りむいた時、母親のスキンシップで泣き止むことができたと思います。まだ、傷は痛むのに再び走り出せる。こうして感情を抑えることを学びます。理性の力で調整するのではなく声の調子や、優しいまなざし、顔の表情、体を触ってくれるなど右脳の働きです。辛い時に自分の感情をどのように扱えるかが重要なことです。うつになる人は、この感情調整がうまくできていないケースが多い。認知行動療法の中にあるマインドフルネスという手法で、学習していくことができます」という。

 緒方俊雄・SOTカウンセリング研究所所長は、「薬を飲み休息をとることで立ち直れる人は、それでいいと思います。ただ、根本的な解決とはなっていないので、何がしかの出来事、きっかけで再びうつ病に陥る可能性が高いといえます。再発を繰り返している人、10年も薬を飲み続けていても良くならない人がいます。それは、うつ病になりやすい性格、行動パターンをもっているからです。薬で気分を盛り上げても原因を変えてやらないと治らないでしょう」と心の底に潜む、うつに陥る要因をカウンセリングで引出してやることが改善につながると話す。

 さらに「医師の考え方や抗うつ薬そのものを全面否定する気はありません。初期の段階ならば、その方が時間も手間も少なく済むからです。それに対しカウンセリングは、時間もお金もかかります。まずは薬で治るならそれでいい。しかし、治らない場合はカウンセリングで治すしかありません」と語った。

 インタビューで印象に残った話は、とても紹介しきれない。認知行動療法やうつを予防する呼吸法、音楽療法なども取り上げた。まだまだ、とりあげなければならない、話を聞きたい取り組みは多い。本年も精力的に取材していく方針でいる。


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