2024年11月5日(火)

BBC News

2024年11月5日

クリスタル・ヘイズ、BBCニュース(アリゾナ州マリコパ郡)

有刺鉄線に黒い分厚い鉄柵。金属探知機に武装した警備員。そして爆発物探知機。

まるで、空港や刑務所のような警備態勢だ。しかしここは、スタッフが選挙の投票用紙を数える場所なのだ。必要となれば、ドローン(無人機)や騎馬警察を投入したり、屋上に狙撃手を配置したりするなど、警備をさらに強化する計画もある。

アリゾナ州マリコパ郡は前回2020年の大統領選で、陰謀論の中心となった場所だ。民主党のジョー・バイデン候補に1万1000票弱の差で敗れた共和党のドナルド・トランプ大統領(当時)が、不正投票があったなど根拠のない主張を広めたのが発端だった。

偽情報は拡散され、集計作業中の建物に武装した抗議者たちが押し寄せたほか、選挙結果に異議を唱える訴訟や監査が相次いだ。

このため、マリコパ郡での開票作業は一変することになった。本来は地味なはずの作業に、厳重警備がつくようになった。新時代の幕開けだ。

開票を「一大イベントのように」警備

マリコパ郡のラス・スキナー保安官は、開票作業を「(アメリカン・フットボールNFLの決勝戦)スーパーボウルのような一大イベントと、同じように扱っている」とBBCに話した。

マリコパ郡は全米各地の郡の中で4番目に人口が多く、アリゾナ州の有権者の約60%が暮らす。スキナー保安官によると、そこで選挙にかかわる人たちは今回の大統領選に向けて、1年以上前から計画を立てていた。

保安官事務所は、複数の投票所とこの開票所の警備を担当している。ほとんどの捜査関係者は通常、選挙法にはあまり詳しくないものだが、ここの副保安官たちは選挙法について訓練済みだ。

スキナー保安官はドローンや狙撃手の投入といった警備強化について問われると、「それが必要な水準にまで、事態が至らないよう願っている」としつつ、「求められる警備のレベルに確実に対応するため、そして開票所と作業員の安全とセキュリティを確保するための、備えはできている」と答えた。

どのようなプロセスで開票するのか

この土地の選挙手続きは多くの点で、全米各地の郡と同じだ。有権者は投票所で投票する。投票用紙はその後、新しい集計機が設置されたフィーニックスの開票所に運ばれる。郵便投票の場合は、まず投票用紙を点検し、署名を確認する。別々の政党に所属する作業員2人が投票用紙を分類し、間違いがないか調べるなど、細心の注意を払った作業によって票は集計される。

この投開票作業の様子は24時間、ライブ配信される。

投開票手続きそのものに大きな変化はないが、それ以外には大きな変更があった。2020年の大統領選以降、アリゾナ州では再集計を求めやすくする新しい州法が成立している。

以前の再集計は、勝敗が得票率の0.1ポイント差という僅差で決着した場合に限られていた。それが今では0.5ポント差から、再集計を要求できる。

監視カメラや武装警備員、目隠しも

開票所は現在、監視カメラや武装した警備員、二重のフェンスで厳重に囲まれている。

一方のフェンスには分厚い布が張られ、中がのぞけないようになっている。当局によると、建物の外でスタッフが嫌がらせや脅迫を受けないようにするための追加措置だという。

「こんなことをしなければならないなんて、悲しいことだと思う」と、マリコパ郡の監督者ビル・ゲイツ氏は述べた。

共和党員のゲイツ氏は2020年の選挙後に脅されたことが原因で、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断されたという。今回の選挙が終わったら、もう公職に就くつもりはないとゲイツ氏は言う。選挙をめぐる緊迫した状況が理由だ。

「ここは武装地帯ではないと、それを理解したうえで投票所に来てほしい」と同氏はBBCに話した。「家族や子供と安心して投票所に行き、民主主義に参加できると」。

最大の焦点は透明性

マリコパ郡は2020年以降、このことに数百万ドルを投じてきた。懸案は警備強化にとどまらない。現在では30人規模の広報チームがいる。

その最大の焦点は、開票の透明性だ。集計機のテスト稼働を何時間もライブ配信したり、開票所の一般公開ツアーを数十回実施したり、オンライン上のうわさや選挙をめぐる陰謀論に反論するためのスタッフを用意したりしている。

従来のやり方から「スイッチを切り替えたような感じ」だと、マリコパ郡のアシスタントマネジャー、ザック・シラ氏はBBCに語った。「投開票に関わるあらゆる部分についてコミュニケーションを取り、世の中に出回っているあらゆる説を否定していこう」と、前回の選挙後に決断したのだという。

そうやって準備を重ねて、5日の選挙に向かってきたのだ。

「準備しすぎだということになるかもしれない」とスキナー保安官は言った。「たとえそうだとしても、最悪の事態に備えたうえで、最善を願う方がいい」。

マリコパ郡の共和党支持者に最近の変化について尋ねたところ、前回に比べて今回の選挙では問題が減ると思うという答えが返ってきた。

アリゾナ州スコッツデールで開かれた共和党のJ・D・ヴァンス副大統領候補の集会に参加したというギャレット・ラドウィックさん(25)は、「(問題が生じないようにするのに)役立つと思う措置を取っていると思う」と述べた。

「リベラル派を泣かせよう」と書かれたトランプ氏支持のキャップをかぶったラドウィックさんは、「今回は前よりも多くの人が、事態を理解しているし、タカの目ですべてを見つめる人が前よりずっと増えると思う」と話した。

共和党支持の有権者エドワードさんは、2020年の選挙選をきっかけに、より深く選挙に関わるようになったとBBCに話した。5日は、マリコパ郡の投票所での2つのシフトに申し込んでいるという。

「集会に参加しても、動揺しても、事態は解決しない」、「自分は解決にかかわりたかった」のだと、エドワードさんは述べた。

しかし、誰もが納得しているわけではない。

マリーサ・メイヤーズさん(55)も、選挙プロセスに対する自分の不信感があまりに根深いものになってしまったため、選挙が公正に行われるとはもはやとても信じられないと話す。同じ意見の共和党支持者はほかにも複数いる。

「(前回選挙は)不正に仕組まれていたと、今でも思っている」とメイヤーズさんは言う。「今では誰かを信用するのは非常に難しい」。

アリゾナ州の選挙結果はマリコパ郡の投票に左右されることが多い。当局によると、全ての票の集計には最大13日間かかるかもしれないという。つまり、この激戦州で予想される接戦は、投票当日の夜までには決着しないおそれがある。

「2024年の選挙ではマリコパ郡での結果に、全世界が注目するかもしれない」と、前出のマリコパ郡のシラ氏は述べた。

「民主主義に対する世界の信頼は、まさにここに集約されるのかもしれない」

(英語記事 Drones and snipers on standby to protect Arizona vote-counters

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cgr05p908qpo


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