2024年12月26日(木)

BBC News

2024年12月10日

チャス・ガイガー、政治担当記者

イギリスの正規軍は、もしウクライナで起きている紛争と同規模の戦争を戦うことになれば、最短6カ月で全滅する可能性がある――。イギリスのアリステア・カーンズ退役軍人担当相が、そんな警告を発した。

元王立海兵隊大佐で予備役でもあるカーンズ氏は、ロンドンの防衛シンクタンク「王立防衛安全保障研究所(RUSI)」で4 日、予備役をテーマに講演した。

その中でカーンズ氏は、ロシアによるウクライナ侵攻でみられるのと同じようなペースで死傷者が出た場合、英軍なら6~12カ月で戦力を「使い果たす」だろうと述べた。

そして、「大規模な戦争」を戦えるようになるには、予備役が重要だとした。

公式データによると、英軍には10月1日時点で10万9245人の人員がいる。うち2万5814人は志願予備役となっている。

カーンズ氏は、ロシア兵の死傷者は1日約1500人に上っていると説明。

そのうえで、「限定的な軍事介入ではなくウクライナにおけるのと同じような規模の戦争の場合、現在の死傷ペースでいけば、広範な多国籍連合の一員である私たちの軍隊は、6カ月から1年で戦力を使い果たすだろう」との見解を表明した。

そして、「だからといって、もっと大きな軍隊が必要ということにはならない。だが、危機の際に深さと規模を迅速に生み出せるようにしておく必要はある」とした。

さらに、「そのためには予備役が極めて重要であり、ものすごく大事な存在だ」と強調。

「予備役がいなければ規模を生み出せず、数々の防衛任務や課題に対応できない。それに、最高のエキスパートたちを途切れなく軍隊の中枢に組み入れることもできない」と述べた。

「第3の核時代」

RUSIでの別の講演では、英軍制服組トップのサー・トニー・ラダキン国防参謀総長が、イギリスや他の北大西洋条約機構(NATO)加盟国に対してロシアが「重大な直接攻撃や侵略」を仕掛ける可能性は「ごくわずか」であることに留意することが重要だと述べた。

そして、「(攻撃への)対応が、通常兵器であれ核兵器であれ、ものすごいものになることは(ロシアも)わかっている」と付け加えた。

ラダキン提督は同時に、核抑止力を「強い状態に保つ」ことは必要だと主張。冷戦と、その後の軍縮の時代を経て、世界は「第3の核時代」を迎えつつあると警告した。

その新時代については、「かつての安全保障構造がほとんど存在しない」ことと、核保有国が増えることが特徴になるだろうとした。

ラダキン提督はまた、中国が核兵器の保有量を増やしていることで、アメリカは中国とロシアの「二つの挑戦」に直面する可能性があると説明。中ロはともにかなりの兵器を保有しているとした。

予備役の貢献度

予備役は、余暇を利用して本業以外の訓練をし、報酬を得る。

カーンズ氏は、ウクライナで続いているような戦争は実際には、「消耗戦」なのだと説明。イギリスについて、予備役にもっと重点を置いて「NATO同盟各国に追いつく」必要があると述べた。

一方、国防省の報道官は英軍について、「世界最高の軍隊の一つであり、24時間365日イギリスを常に防衛し、同盟国やパートナーとともに、あらゆる事態に備えている」と主張。

「戦略防衛の見直しによって、直面する脅威と必要な能力について検討し、私たちの軍が戦闘態勢をいっそう整え、さらに統合し、いっそう革新的になるようにする」とし、こう続けた。

「予備役は軍にとって不可欠であり、極めて貴重な要素だ。軍の回復力と、必要なときに追加要員を招集できる能力に対する予備役の貢献度は、非常に重要だ」

これに先立ち、首相官邸の報道官は、10月末に発表した秋季予算を通じて「何十億ポンドも防衛に投資した」と述べた。

「行動の時」

議会で先月開かれた国防特別委員会で、サー・ロブ・マゴーワン国防参謀副長は、「もし英軍が今夜戦えと言われたら、今夜戦う」と発言。

「ただ、仮にロシア軍が今夜、東ヨーロッパに侵攻してきたら、私たちはその戦いでロシア軍と対決することになるとの錯覚は、この部屋にいる誰ももつべきではないと思う」と述べた。

一方、デイヴィッド・ラミー外相は今月4日、アメリカのドナルド・トランプ次期大統領のホワイトハウス復帰を控え、NATO加盟の欧州各国に対して防衛支出の増額を訴えた。

トランプ氏は、欧州各国が自国の安全保障をアメリカの税金に頼っていると非難している。

ブリュッセルで開かれたNATO外相会議でラミー氏は、「今こそ行動の時だ」と訴えた。ただ、英政府は防衛費を国内総生産(GDP)比で2.5%に引き上げるための独自の計画をまだ打ち出せていない。

ラミー氏は、ロシアがウクライナ侵攻したことと、中東を含む世界各地の紛争にロシアが関与していることを強調。

「イギリスでは(防衛費のGDP比は)2.3%で、できるだけ早くこれを2.5%に引き上げたい。そして、NATOのすべての同盟国に、防衛支出に関して真剣になるよう強く呼びかける」と述べた。

ラミー氏はまた、「自分たちがいま途方もない安全保障上の課題に直面していることを、各国は理解する必要がある」と話した。

(英語記事 Major war could destroy army in six months - minister

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cvgmel392ero


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