2024年12月25日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年12月24日

 タルトゥースやフメイミムからの大規模撤退の証拠はまだない。タルトゥースを失うことは、東地中海での恒久的なプレゼンスを維持しようとしているロシア海軍に大きな影響を及ぼすだろう。

 アナリストらは12月9日、同港と黒海の同様の施設がウクライナ戦争の脅威にさらされていることから、ロシアは艦船と潜水艦をバルト海に再配備せざるを得なくなる可能性を示唆した。

 ロシアのジャーナリスト兼アナリストであるアントン・マルダソフ氏は20年、中東研究所に寄稿し、ロシアはフメイミム空軍基地をシリア反政府勢力への攻撃拠点としてだけでなく、リビア、中央アフリカ共和国、スーダンの傭兵支援拠点としても利用していると記している。

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ロシアにとっての大きな損失

 シリアの露軍基地は、ロシアによる地中海やアフリカへの影響力拡大の基礎であり、ロシアにとってシリアがもつ意味合いの核心である。これを失うことはロシアにとっての戦略的敗北を意味するが、11月末以降の動きは、今のロシアにはこれほど重要な軍事施設を防護する余裕がないこと、ウクライナに対する大義なき侵略がロシアの戦略的な行動様式に如何に深刻な影響を与えているかを示している。

 ロシアがシリアの軍事基地を失うことが如何に大きな損失になるかについては、大きく三つある。

 第一に、北大西洋条約機構(NATO)が中東欧諸国や旧ソ連圏へと拡大していく中で、プーチンは、北はカリーニングラードからベラルーシ、ウクライナ、そしてシリアへと続く地域を政治的にロシアの影響下におくとともに兵力を前方展開することで、シームレスな対NATO防衛ラインを構築しようとしてきた。

 14年にロシアはクリミアを併合し、同地を戦闘機、戦略爆撃機、ミサイルの基地として整備する一方、カリーニングラードのミサイル及び地上軍兵力を増強し、ベラルーシとの軍事協力をさらに推し進めた。シリアでは内戦が本格化した12年以降、冷戦終結のあと殆ど使用されていなかったタルトゥース海軍基地の使用を再開し、さらに翌15年には軍事介入して、フメイミム空軍基地を建設した。

 シリアにおけるこれらロシア軍基地はクリミアに配備されたミサイル、戦闘機、爆撃機等と相俟って、ロシアにとってのNATO南翼に対する威嚇を構成していた。

 ところがウクライナ戦争が長期化する中で、クリミアのセバストポリに司令部を置くロシア黒海艦隊は相当の被害を受け、これに加えて仮にシリアの基地からの撤退を余儀なくされることになれば、プーチンが過去10年以上をかけて構築してきた防衛網に大きな穴が空くことになる。これがロシアにとっての第一の問題である。


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