2025年1月26日(日)

プーチンのロシア

2024年12月11日

 ドイツのメルケル前首相がこのほど出版した回顧録『Freedom』で、ロシアのプーチン大統領が会談時に自身の飼い犬を同席させ、犬嫌いのメルケル氏を怖がらせようとしたエピソードを公開した。プーチン氏は回顧録をめぐり「犬が怖いとは知らなかった」と弁解したが、当時の状況は、プーチン氏の説明が虚偽であることを浮かび上がらせている。プーチン氏と欧州連合(EU)、その中心国のドイツの首相であったメルケル氏の間には、コソボの独立問題をめぐる厳しい断絶があった。

犬嫌いのメルケル氏との会談に飼い犬を連れてきたプーチン氏の意図とは?(2007年1月、TASS/アフロ)

 ソ連国家保安委員会(KGB)の元工作員として人心掌握を得意としていたプーチン氏が、自身が勤務していた東ドイツで育ったメルケル氏の性格を把握していなかったはずはない。首脳会談という国家間の最重要の接触の場を使い、相手が嫌がる異常ともいえる行為をあえて行った背景には、明らかにメルケル氏を威嚇しようとする意図があった。相手の感情を揺さぶりながら、自身のメッセージを伝えようとするプーチン氏の人物像も浮かび上がらせている。

黒い大型犬

 報道陣のフラッシュがたかれるなか、首脳会談を開始しようとした2人の視線の先には、場違いな大型の黒いラブラドールレトリバーがいた。プーチン氏が、後に国防相となるセルゲイ・ショイグ氏からプレゼントされた「コニー」と名付けられた大型犬は、ジャーナリストらと2人の間を行き来しながら、あるときはメルケル氏の前に座り込んだりもした。メルケル氏は引きつった笑顔を浮かべていたが、その表情からは犬の存在を喜んでいないことがありありとうかがえた。

 これは2007年1月、ロシア南部ソチで行われたプーチン氏とメルケル氏の会談での出来事だ。メルケル氏は、自身の回顧録でこの出来事について言及し、「私は近づいてくる犬を無視しようとした。しかしそのとき、私はプーチン氏の表情から、彼がその状況を楽しんでいるということを悟った」と記している。

 報道によれば、ペットを会談の場に連れ込むことがあるというプーチン氏の行動を知っていたドイツ側は、すでに前年にロシア政府に、メルケル氏が犬を怖がるために、そのような行為をしないよう要請していた。しかし、その要請は完全に無視された格好だ。


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