2025年12月6日(土)

プーチンのロシア

2024年12月11日

 回顧録でのメルケル氏の言及についてプーチン氏は今年11月、「このことはすでに彼女に伝えたが、私は彼女が犬を怖がっているなどとは知らなかったのだ。もし知っていたら、このような真似は決してしなかっただろう。私はただ、友好的な雰囲気を作り出したかっただけだ」と弁明した。

明らかな矛盾

 ただ、そのようなプーチン氏の言葉は、前年にドイツ側が犬を連れてこないよう警告していたという事実と全く矛盾している。

 プーチン氏はあらゆる首脳会談において、相手側の状況を入念に調査し、相手に対し優位に交渉を進めるための〝仕掛け〟を講じてくることで知られる。メルケル氏自身もプーチン氏について「わざと会談に遅れたり、犬を使うことで、自身の権力を誇示する」人物だと指摘している。

 事実、このソチでの会談時の様子をみれば、プーチン氏がいかにメルケル氏に威圧をかけようとしていたかがうかがえる。当時のロシアメディアは、そのやり取りの詳細を報じていた。

 「コニー(犬)は噛まない。怖がらないでくれ」と語りかけるプーチン氏。しかしメルケル氏は、犬の様子に気を取られ、会談内容にも集中できない様子だった。メルケル氏は犬がカメラマンに近づいた際に「ああ、今度はカメラマンが(犬に)食べられるわよ」とロシア語でいらだちをぶつけたりもしたという。しかしプーチン氏は、おかまいなしだった。

 この日の会談では何が話し合われたのか。主要議題はロシアによるポーランド産食肉の輸入停止問題と、欧州へのロシア産エネルギー輸出だった模様だが、会談後の記者会見では、ひとつのトピックと、それに対するプーチン氏の反応が注目を集めた。コソボ問題だ。

会談の背後にあったコソボ問題

 「われわれはベオグラード(セルビア)とプリシュティナ(コソボ)が合意できる解決を求めている。欧州は、セルビアに恥をかかせたい考えなのか? それに伴うリスクを理解しているのか? ベオグラード市中心部への空爆を忘れたのか? これが当たり前のことなのか?」

 メルケル氏との首脳会談後、共同記者会見に臨んだプーチン氏の言葉は熱を帯びていた。コソボをめぐる記者の質問に、怒りをぶつけるかのようだった。

 コソボ問題は、ロシアとEUなど西側諸国の間に深い溝を生み出している。

 旧ユーゴスラビア・セルビアの一部で、同国からの独立を目指していたコソボをめぐっては99年、セルビアの治安部隊によるアルバニア系住民への迫害が激化した。それを受け、米国が主導する北大西洋条約機構(NATO)が空爆を開始、コソボ紛争に発展した。

 紛争の結果、セルビア部隊はコソボから撤退し、その後コソボの独立に向けた動きが進んだ。セルビアと関係が深いロシアはこの動きに強く反発したが、最終的に08年2月にコソボ議会が独立を宣言し、欧米や日本などが承認した。ただ、ロシアはコソボの独立を認めていない。

 NATOによる軍事介入は、国連安全保障理事会の決議を得ずに行われた。国連安保理の常任理事国としての立場を外交上の武器とするプーチン政権にとり、国連安保理の決議なしで自国に関係が深いセルビアへの空爆に踏み切ったNATOの行為は決して容認することができないものだった。


新着記事

»もっと見る