第二の問題は、シリアのこれら軍事基地がロシアによる地中海からアフリカ方面への進出にとって不可欠のロジスティク拠点の役割を果たしていることに関連している。
フメイミム空軍基地はロシアとアフリカを結ぶ中継点としての役割を果たしており、仮に同基地が使用できなくなれば、アフリカへの傭兵の派遣や同地からの天然資源のロシアへの搬入コストが大幅に増加し、ロシアによるアフリカ進出は相当の停滞を余儀なくされることになる。
またタルトゥース海軍基地はロシアにとって地中海における唯一の艦船修理・補給基地として機能している。今後仮にこれが使えなくなれば、地中海に遊弋するロシア艦船は、補給等のためボスポラス海峡を通過して黒海に入り、ノヴォロシスク港などロシア沿岸の港まで行かなければならない。
ところがボスポラス海峡の管理については1936年のモントルー条約でトルコが強い権限をもっており、特にウクライナで戦争が継続している間は、戦争当事国たるロシアの船舶は母港に帰還する以外の目的で通航することはできない。またタルトゥース基地が使えなくなれば、地中海における水上・潜水艦作戦の実施が困難となり、同海域におけるプレゼンスは大きく削減されることになる。
「グローバルな大国」の地位にも揺らぎ
最後に、シリアのこれら基地が使用できなくなって中東、アフリカにおけるロシアの軍事行動が大きく制約されることになれば、ロシアの政治的影響力は大きく低下し、「グローバルな大国ロシア」たる地位を得ることを重視してきたプーチンにとっては深刻な政治的痛手となるであろう。
現時点において露軍基地が完全にロシアの管理から離れたことは確認できないが、あらゆる状況証拠からして脆弱性を抱えていることは間違いない。また現時点においてこれら基地がなおロシアの手中にあったとしても、その将来は、極めて流動的なシリア情勢に大きく左右されることとなるだろう。