2025年1月11日(土)

BBC News

2025年1月11日

ケイラ・エプスティーン、マデリン・ハルパート

ドナルド・トランプ次期米大統領が元不倫相手への口止め料支払いについて事業記録を改ざんした罪状34件について有罪評決を受けている裁判で、ニューヨーク州地裁は10日、禁錮や罰金などの刑罰を科さない「無条件の放免」という、異例の量刑を言い渡した。これによって、アメリカ大統領経験者に対する史上初の刑事裁判は終わり、トランプ氏は重罪で有罪判決を受けた初のアメリカ大統領になる。

量刑言い渡しの前に裁判を担当したホアン・マーシャン地裁判事は、「この裁判所がこれほど特異で驚くべき状況に直面したことは、過去にない」とコメント。トランプ次期大統領への裁判を、「本当に稀有(けう)な事件」だと評した。

次期大統領はフロリダ州からのビデオリンクで、自分への量刑言い渡しに「出廷」。自分は「完全に無実だ」と述べた。

この裁判でトランプ氏が「無罪」、あるいは「はい」以上の長さで何かを発言するのは、これが初めてだった。

量刑言い渡しの前に発言の機会を与えられた次期大統領は、裁判について数分間にわたり非難を重ね、「とてもひどい経験だった」と強調した。

トランプ氏は、司法制度が武器として使われ、自分を起訴したニューヨーク州のアルヴィン・ブラッグ・マンハッタン地区担当検事は政治的動機からそうしたのだと主張。

「自分はとても、とても不当に扱われたと説明した。どうもありがとう」と、次期大統領は最後に結んだ。

ブラッグ検事は、被告人のトランプ氏が自分に向かって初めて直接話しかける様子を、ほとんど表情を変えずに見ていたものの、検事は実は自分を起訴したくなかったのだと次期大統領が主張すると、静かに笑っていた。

トランプ氏本人の陳述が終わると、マーシャン判事は裁判の「パラドックス」についてしばらく振り返った。判事は、法廷の措置でマスコミと政界が大騒ぎになっているのと裏腹に、「いったん法廷の扉が閉じれば、同時に行われている他の裁判に比べて特に特異だというわけでもなかった」と指摘。ただし、トランプ氏が被告人として有罪評決を受けた後に、アメリカ国民がその人を次の大統領に選挙で選んだため、事態はさらに大きく変化したのだと、判事は話した。

判事は、「この国最高の職務を侵食することなく下せる、唯一の合法な量刑」は「無条件の放免」しかないと、熟慮の末に結論したのだと説明。これによって、現職大統領が裁判手続きで職務を妨げられている状態を、アメリカ国民は回避できると判事は話した。

歴史的な裁判

トランプ次期大統領は2024年5月、業務記録の改ざんをめぐり、ニューヨーク州の陪審によって重罪34件についていずれも有罪判決を受けた。しかしその後の量刑言い渡しは、連邦最高裁判所の判決や昨年11月の大統領選挙のため、何度も延期された。

ニューヨークでのこの裁判は、2016年大統領選の終盤に、ポルノ映画スターとの関係について口止め料の支払い、その支払いを隠蔽(いんぺい)しよう画策したことに関するものだった。検察は、口止め料の支払いが有権者から重要な情報を隠すための選挙妨害の一種で、ゆえに法律に違反していると主張した。

トランプ氏の弁護士だったマイケル・コーエン氏は2016年10月、トランプ氏と数年前に性的関係があったとされるストーミー・ダニエルズ氏に、その関係について口外しないよう13万ドルを支払った。

2016年選挙で当選後、トランプ氏はコーエン弁護士に分割払いで返済し、それを事業の法的費用として虚偽に記録した。トランプ氏に対する有罪評決は、この隠蔽行為に関連する個々の偽造文書についてのもの。

トランプ氏は起訴内容に対して無罪を主張し、ダニエルズ氏との性的関係を否定した。次期大統領は、この事件が政治的な動機による迫害だと繰り返した。

公判は6週間にわたり、法律と政治と報道が入り乱れる騒ぎになった。コーエン氏やダニエルズ氏といった、人目をひく著名人が証言台に立ち、トランプ氏の弁護士からの質問に答えた。

トランプ氏は毎日、家族のほか、自分を支持する共和党関係者を連れて出廷。弁護団が座るテーブルの後ろの傍聴席は、自分の応援団席と化した。法廷外の廊下にある小さい記者団用のスペースの前に、毎日立ち、長広舌を繰り広げた。司法制度やマスコミをはじめ、自分に敵対するとみなす勢力を、その場で次々とこきおろし続けた。

トランプ氏はまた、裁判で世論が騒然としたのを利用して、法廷闘争と再選のための資金を支持者から集めた。

2021年1月に退任してからの約4年間、トランプ氏はニューヨークでの事件を含む刑事事件4件で起訴された。最終的に、公判が開かれたのはニューヨークのこの事件だけだった。

自分が複数の事件で起訴されたトランプ氏は選挙戦中、その法的な泥沼を逆手にとった。各地の支持者集会やソーシャルメディアで自分は、そして支持者たちは、仕組まれた司法制度の被害者なのだという持論を展開し続けた。

2020年大統領選の結果を覆そうとしたという罪状の事件2件を含め、複数の事件で起訴されたにもかかわらず、トランプ氏は昨年11月の大統領選でカマラ・ハリス副大統領に勝利した。

その結果、選挙介入のほか、機密文書の不適切な取り扱いに関する事件む、2件の連邦法違反裁判は、打ち切りになった。ジョージア州フルトン郡で選挙に介入したという州法違反の事件は、裁判関係者にまつわる問題が二転三転しているほか、延期が何度も繰り返されている。

こうした状況で、裁判が量刑言い渡しまでたどりついたのは唯一、ニューヨークでのこの事件のみ。マーシャン判事は今年1月初め、量刑言い渡しは行うという立場を堅持し、トランプ氏に本人かオンラインかで出廷するよう命じた。

しかし、法廷闘争はそこで終わらなかった。次期大統領の弁護士は量刑言い渡しを差し止めようと、矢継ぎ早に申し立てを提出し、連邦最高裁にまで働きかけた。

最高裁は9日夜、簡潔な命令でその申し立てを退けた

弁護団はさらに、次期大統領には刑事訴追から免責される特権があると主張して事件の棄却を求めたが、マーシャン判事はこの主張を退けた。しかし弁護団は、大統領は刑事訴追から免責されるという主張を、引き続き上級裁判所で訴えている。

ニューヨークの法廷でマーシャン判事が最後の木づちを打ち、トランプ氏の裁判が最終的に閉廷した瞬間、次期大統領の人生において個人として、そして政治家として、特に緊迫する内容だったこの章も終わった。

10日後に大統領として宣誓し就任するトランプ氏は、重罪で有罪判決を受けた初のアメリカ大統領になる。

マーシャン判事は最後に、「任期2期目に就くにあたり、神のご加護をお祈りしています」とトランプ氏に告げて、量刑言い渡しを終えた。

(英語記事 Trump avoids prison or fine in hush-money case sentencing

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/clyewx8gerxo


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