2025年1月11日(土)

BBC News

2025年1月11日

ナタリー・シャーマン、BBCニュース

アメリカのIT大手、メタとアマゾンは共に、社内の多様性プログラムを廃止する方針を示している。アメリカでは多くの企業が、採用や社内訓練において、保守派が批判するこうした多様性確保の取り組みを撤回している。複数の企業が撤回の理由として、法的・政治的リスクを挙げている。

メタは採用、取引先との関係、社内訓練に影響を与えるこの決定について、スタッフへのメモで「法的および政策的な状況が変化している」と述べた。

フェイスブック、インスタグラム、ワッツアップなどを所有するメタ・プラットフォームズの決定については、米ニュースサイト「Axios」が最初に報じた。BBCが内容を確認した社内メモは、大学入試での人種に関する最高裁判決を引用し、「DEI(多様性、公平性、包括性)」という用語が「批判の対象になっている」と述べた。

メタは、今後も引き続き多様なスタッフを探し続けるものの、多様な候補から採用しようとする現在の取り組みは終えると説明した。

また、「多様性」を維持する取引先との連携を終え、代わりに中小企業に焦点を当てると説明。「公平性と包括性」のトレーニング提供も中止し、「背景に関係なく、すべての人のバイアスを軽減する」プログラムを提供する計画だとしている。

昨年11月の大統領選でドナルド・トランプ氏が当選して以来、アメリカではウォルマートやマクドナルドといった企業も、多様性の取り組みに関して同様の決定をしている。

メタ・プラットフォームズも今回の決定に先立ち、トランプ氏や共和党からかねて批判されていたファクトチェックの取り組みを終了すると発表した。

アマゾンは昨年12月の社内メモで、社内人材の多様性を確保するための「代表性と包括性」に関する「時代遅れの取り組みと資料」を2024年末までに終了することを目指していると述べた。米ブルームバーグが10日に最初に報じた

アマゾンの包括的体験と技術を担当するキャンディ・キャッスルベリー副社長は社内メモで、「個々のグループがプログラムを構築するのではなく、実績のあるプログラムに焦点を当て、もっと本当に包摂的な文化を育むことを目指している」と述べている。

金融大手のJPモルガン・チェースとブラックロックもこのほど、、気候変動リスクに取り組むグループから撤退した。

こうした動きは2年前に始まり、このところ加速している。ブラックロックやディズニーといった企業については共和党が、「woke」で「進歩主義な行動主義」をとっていると非難してきた。ウォーク(woke)とは、差別や格差の問題を意識する傾向を指す言葉。

ビール大手バドワイザーの「バド・ライト」や大手量販店ターゲットなどが、性的少数者(LGBTQ)の顧客層にアピールしようとしてきたことも、保守派の反発を招き、ボイコットにあった。

アメリカでは多くの企業や組織が、2020年に黒人男性ジョージ・フロイドが警察に殺害された事件を受けて各地で起きた「Black Lives Matter」抗議の後、多様性、公平性、包括性の取り組みを開始した。

しかし、最近ではこうしたいわゆる「DEIプログラム」が差別的だという批判が高まり、複数の裁判所もその批判を支持する判決を下している。

連邦最高裁は2023年、私立大学が入試の合否決定において受験者の人種を考慮する権利を否定した。

連邦巡回区控訴裁判所は昨年12月、大手証券取引所ナスダックが上場企業に女性やマイノリティーの取締役を少なくとも1人は求める多様性ルールを、無効と判断した。

メタは社内メモについて、コメントを拒否している。同社の決定については賛否の声が出ている。

保守派の活動家ロビー・スターバック氏は、「一連の動きをじっと見守りながら、心底楽しんでいる」と話した。同氏はこれまで、自動車のフォードや農業機械のジョン・ディア、バイクのハーレーダビッドソンなど大手企業の社内多様性事業について抗議運動を成功させてきたと自負している。

一方、LGBTQ擁護団体「ヒューマン・ライツ・キャンペーン(HRC)」は、職場の包括性方針が特に優秀な人材確保につながり、長期的なビジネス成長に直接結びついてきたと話す。

「多様性を重視するという取り組みを放棄する企業は、従業員、消費者、株主に対する責任を放棄している」と、HRC財団の職場平等プログラム担当、ラショーン・ホーキンス氏は述べた。

「真実の仲裁役」は心配だったとザッカーバーグ氏

保守派に人気のポッドキャスターのジョー・ローガン氏との3時間近いインタビューで、メタのマーク・ザッカーバーグCEOは、何が事実で何がそうでないか、自分たちが「真実の仲裁役」を担ってきたことが常に心配だったと認め、2016年大統領選の後に問題が最初に加熱した時点で、「きちんと対応できる準備ができていなかった」と述べた。

ザッカーバーグ氏は、情報削除の要求がバイデン政権下で次第に無理なものになっていったと話した。例えば、パンデミック中にワクチンの副作用に関する発言を削除するよう圧力を受けたという。

それによってむしろ、自分自身に対するものを含め、さまざまな政治的反発が発生してしまったと、ザッカーバーグ氏は話した。

「社内方針がどうあるべきか、今では自分が前よりはるかにしっかり仕切れるようになったと思う」とザッカーバーグ氏は言い、アメリカ政府は「国内企業を攻撃する戦闘に立つのではなく(中略)国内企業を守るべきだ」とも述べた。

「アメリカ政府がIT業界を攻撃すれば、基本的に世界中でも好き勝手に攻撃できるようになってしまう」とも話した。

(英語記事 Meta and Amazon axe diversity initiatives joining US corporate rollback

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c0lz82n6nk7o


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