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ドナルド・トランプ米政権は28日、行政管理予算局(OMB)による助成金や融資などの資金拠出を一時的に停止するよう指示した。流出した内部メモによって明らかになった。一時凍結は米東部時間同日午後5時(日本時間29日午前7時)に開始される予定だったが、直前に連邦裁判所がこれを差し止めた。
首都ワシントンの連邦地裁のローレン・アリハン判事は、現在実行されている連邦資金からの拠出を2月3日までは停止しないよう命じた。そのうえで、同日に次回審理を設定した。
連邦資金は、フードスタンプ(食費補助)、健康保険制度「メディケア」や「メディケイド」、幼児教育プログラム、農業補助金、対外援助、社会保障年金、学生ローンなど、数百件のプロジェクトに使われている。ただ今回、どの組織やプログラムへの助成が凍結の対象にされていたのかは不明で、メモについて報じられると各所で混乱が広がった。
28日午後には、メディケイドの支払いポータル、幼児教育プログラム「ヘッドスタート」、地域保健センターなど、いくつかの連邦資金提供プログラムに関連するウェブサイトがダウンしているという報告が浮上した。
こうした事態を受け、民主党主導の複数の州が、この政策に対して訴訟を起こす意向を示した。
一方、後から流出した別のメモによると、フードスタンプやメディケイド、ヘッドスタート、農家、中小企業、家賃補助への資金は凍結の影響を受けないとされる。また、国防総省と学生ローン当局は、助成は通常通り継続していると述べた。
「個人には影響しない」とホワイトハウス報道官
判事による差し止めより前、ホワイトハウスのキャロライン・レヴィット報道官は記者会見でこの件に言及した。だが、どの組織やプログラムが対象となるかは明らかにせず、記者会見後に全体のリストを提供すると話した。
記者からの質問に答える中でレヴィット氏は、助成の一時凍結は社会保障やメディケア、フードスタンプといった支援を受けている個人には影響しないと述べた。
一方で、トランプ大統領は納税者のお金を「適切に管理」し、政権の行政措置と「矛盾しない」ことを望んでいると付け加え、「違法なDEI(多様性、公平性、包摂性)プログラム」への資金提供はもう行わないと述べた。
DEIプログラムは、さまざまな背景を持つ人々の職場への参加を促進することを目的としている。支持者は、こうしたプログラムが、歴史的および現在進行中の差別や、少数民族を含む特定のグループに対する過小評価を解消すると主張している。一方で反対派は、これらのプログラム自体が差別的である可能性を指摘している。
トランプ大統領がこの決定を出す前にNGOなどに通知しなかったのはなぜなのかという質問には、レヴィット氏は「アメリカ国民が働いており、そのお金がこの政権にとって実際に重要であることを示すために、こうした動きが非常に重要だった」と答えた。
また、現在は凍結されている、世界保健機関(WHO)への3700万ドルの拠出を批判。米国際開発庁(USAID)が参画していた、エイズ(HIV)予防のためにパレスチナ・ガザ地区にコンドームを送るプログラムを「納税者のお金のばかげた無駄遣い」と呼んだ。
連邦補助金の凍結が価格上昇を引き起こすかという質問には、社会保障など、凍結の影響を受けないプログラムの例を再度挙げた。
連邦資金の凍結の合法性についても質問が出た。合衆国憲法には「財政権」は行政府ではなく議会にあると規定されており、この点については民主党だけでなく共和党内からも批判が出ている。
この点を記者に問われると、レヴィット氏は「OMBのメモが明確に述べているように、これは確実に法律の範囲内だ」と答えた。
「つまり、助成を停止する権限がないと言う議員たちとは意見が異なるのか」と重ねて尋ねられたレヴィット氏は、メモを再度読むよう記者らに促した。
「残酷で悪質」と民主党、「大したことではない」と共和党
民主党のチャック・シューマー上院少数党院内総務は、助成の一時停止を「違法で憲法違反」だと非難。大統領が「残酷で悪質で違法な混乱」を引き起こしていると述べた。
「トランプ大統領は今週、多くの悪いことをしたが、これ以上に悪いことはない」
シューマー氏は、今回の政策は「プロジェクト2025の別名」だと主張している。プロジェクト2025は、保守派シンクタンク「ヘリテージ財団」が策定した、超保守的な社会像を展開し、大統領権限を拡大する政策提案。
また、主に民主党が主導する22州とコロンビア特別区の司法長官グループが、資金凍結の差し止めを求めてロードアイランド州で訴訟を起こした。
28日午前には、カリフォルニア州、ニューヨーク州、イリノイ州、マサチューセッツ州、ニュージャージー州、ロードアイランド州の司法長官らが記者会見を開いた。
ニュージャージー州のマット・プラトキン司法長官は、トランプ大統領の出生地主義廃止の試みに対する訴訟を引き合いに出し、これが「2度目の反対行動」だと述べた。
ニューヨーク州のレティシア・ジェイムズ司法長官は、大統領が「権限を超えている」と述べた。
さらに、NGOやNPOを代表する連合も、助成金の一時停止について訴訟を起こしている。
一方、共和党のジョン・スーン上院多数党院内総務は、政府の方針を擁護。「行政が資金を一時停止し、これらのプログラムがどのように使われているか、そして大統領が署名した多くの行政命令とどのように関わっているかを精査するのは珍しいことではないと思う」と述べた。
「一部の人々は、個人に直接利益をもたらすプログラム、たとえばメディケイドやSNAP(補足栄養支援プログラム)などについて具体的に質問しているが、これらのプログラムは影響を受けない」
「影響を受けるのは、明らかにDEIやグリーン・ニューディールなどだ」
下院議長のマイク・ジョンソン氏も、連邦助成金と融資の広範な一時停止を完全に支持すると述べた。
「これは一時的な停止であり、プログラムによっては数時間の停止になる可能性がある。大したことではない」と、ジョンソン氏は米紙ザ・ヒルに語った。
「見直しは迅速に進むだろうし、大きなプログラムの中断にはならないと思う。また、OMBのガイダンスには、個人への直接支援は含まれていないと明記されている」
「メディケイド」めぐる混乱
レヴィット報道官の記者会見では、低所得者向けの公的健康保険プログラム「メディケイド」について混乱が見られた。
レヴィット報道官は、連邦資金の一時停止がほとんどのアメリカ国民に影響を与えないと述べたが、メディケイドに関する質問には準備ができておらず、影響を受けるかどうかはわからないと述べた。
レヴィット氏は、凍結は「一時的」であり、「アメリカ国民に対する個別の支援には影響しない」と述べた。
しかし28日、メディケイドなどのサービスの資金を追跡する連邦オンラインシステムは停止していた。
CBSニュースによると、幼児教育プログラム「ヘッドスタート」や地域保健センターなどのウェブサイトも利用できなくなっているという。
レヴィット氏は記者会見後、Xに「ホワイトハウスはメディケイドのウェブサイトポータルの障害を認識している」と投稿。「支払いには影響がないことを確認しており、処理と送信は引き続き行われている。ポータルは間もなくオンラインに戻る予定だ」とした。
メディケイドには昨年9月時点で7220万人、人口のおよそ19%が加入している。また、費用は2023年に全米で8800億ドルに達したと、医療データと研究グループKFFが報告している。
連邦政府は各州に助成金の形でメディケイドの資金を提供している。その割合は州によって異なるが、最低でも50%だ。
パンデミックなど、医療に大きな負担がかかる時期には、連邦資金の増加が想定されている。それでもメディケイドは多くの州にとって大きな予算項目となっており、公教育などのプログラムにも資金を提供しなければならないため、連邦資金の大幅な削減を補うことは難しい。
メディケイドは、退職者向けの健康保険プログラム「メディケア」と混同されることが多い。メディケアは信託基金で支えられており、連邦政府が資金を削減したり、停止したりすることは難しい仕組みになっている。
助成金の凍結をめぐる混乱のなか、個別に声明を出す組織もある。
連邦学生援助(FAFSA)はXで、連邦政府による奨学金ペル・グラントも含め、助成金の一時凍結の影響を受けないと発表した。
国防総省は、新しい連邦資金凍結命令を検討中だが、発効してもペンタゴンの契約には影響しないと述べた。
同省はウェブサイトに掲載した声明で、「一部の報道とは異なり、国防総省は契約の授与を停止していない。国防総省は、認証された任務のニーズを満たすために、新しい契約を引き続き授与している」とした。
一方で国務省は、同省またはUSAIDを通じた「すべてのアメリカの対外援助」を、審査が完了するまで一時停止すると発表した。
声明には、「アメリカ国民からの命令は明確だ。アメリカの国家利益に再び焦点を当てる必要がある」と記載されている。
声明では「重大な資金提供」の例として、ガザの国際医療団への1億200万ドル、USAIDのレジリエンス・環境・食料安全保障局への1230万ドル、「民主主義、権利、ガバナンス」のための機関契約への660万ドルを挙げている。
ロイター通信によると、マルコ・ルビオ国務長官のメモには、90日間の審査期間中に命を救う人道支援は資金提供の停止を免除されると記載されている。これには医薬品、医療サービス、食料、避難所が含まれているという。
一方で、人工妊娠中絶、ジェンダーやDEIプログラム、トランスジェンダー手術を含む活動には免除は適用されない。
(英語記事 US judge temporarily blocks Trump's freeze on federal funding)