2025年3月17日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年2月14日

 2025年1月26日付のワシントン・ポスト紙で、同紙コラムニストのデイヴィッド・イグネイシャスは、トランプ大統領のガザ住民移住の発言を取り上げ、これは愚かな構想だが、トランプには良い構想もある、しかしやみくもな提案の連発は悪しき構想と共に良い構想も葬ることになると、 危惧を表明している。

イスラエルのネタニヤフ首相との会談後にトランプ大統領はガザの米国所有を表明した(AP/アフロ)

 土曜日にトランプ大統領は外交政策で最初の大きなヘマをした。パレスチナ人の一部をエジプトとヨルダンに移してガザを「一掃したい」と提案。

 トランプとの協力を望んでいた穏健アラブ指導者たちは驚愕した。パレスチナ人の移住は、穏健なアラブ諸国の政権を不安定化させかねない。

 トランプは「今のガザは文字通り解体現場のようだ」、「自分は気分を変え、他のアラブ諸国と共に、彼らが平和に暮らせるだろう別の場所で住宅を建設したい」と述べた。トランプはヨルダン国王との私的会話の最後にこうした考えを示し、その後、大統領専用機の中でこの発言をした。ほとんどの外国の指導者同様、ヨルダン国王もトランプとは協力したいと思っているが、新たな難民の流入によって自国を不安定化させるわけにはいかない。

 中東からの反応は素早く、かつ非常に批判的なものだった。ヨルダンのサファディ外相は、パレスチナ人の退去へのヨルダンの反対は「固いもので、今後も変わらない」と述べ、エジプト大使館は、「エジプトはパレスチナ人のシナイ移住の片棒を担ぐことはできない」とのザーラン大使の 2023 年の発言を再投稿した。

 アラブのトランプ支持者でさえ失望した。「我々はパレスチナ人をエジプトやヨルダンに移住させる――明らかに強制的に――という大統領の提案を断固拒否する」、「パレスチナ人の運命に関わる荒唐無稽な主張や発言は要らない」と Arab Americans for Trump のバーバー会長は述べた。

 パレスチナ人の移住に関するトランプの何気ない発言は、好みのプロジェクトを巡って無用な闘争を始めようとする、大統領選出以降見られる傾向を増幅させるものだ。彼はグリーンランドを巡って北大西洋条約機構(NATO)同盟国のデンマークに喧嘩を売り、パナマ運河を取り戻すと脅し、貿易不均衡についてカナダを挑発した。トランプは、外交政策は一方通行の道ではなく、超大国でさえも友人は必要だということを忘れているようだ。

 苛烈な戦争から立ち直ろうとしている今、中東を不安定化させるのはとりわけ愚かだ。トランプが実現を助けたと自慢するガザ停戦や人質解放も、ハマスに代わる統治機構を作れなかったという現実をイスラエルが認識する中、次第に危うくなりつつある。

 中東の将来の安定のもう一つの鍵であるレバノン停戦も、イスラエルが南部からまだ撤退せず、ヒズボラからレバノン軍への引き継ぎも完全ではないため危ない。この取り決めが破綻すれば、レバノンは代償を払うことになるが、イスラエルも自国の国境の北側で紛争が続くという代償を払わなければならなくなる。


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