一昨年の10月以来、イスラエルとパレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスが初めて本格的な停戦に合意した。停戦発効は復権したトランプ氏の大統領就任式の前日という絶妙のタイミングで、イスラエルのネタニヤフ首相のご祝儀だろう。極右政党離脱による政権崩壊のリスクよりもトランプ氏を選択した形だが、数週間後には戦闘再開が必至な“偽装休戦”であることが濃厚だ。
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ハムレットの心境のネタニヤフ
停戦合意がまとまった最大の要因は「ハマスの壊滅まで戦争を継続する」と頑なに主張していたネタニヤフ氏が米国の要請を受け入れたことだ。しかし、昨年5月以来、働き掛けてきたバイデン大統領のためではなく、トランプ次期大統領の求めに応じたというのが実態だ。
停戦交渉の土壇場では、犬猿の仲のバイデン大統領と次期大統領のトランプ氏がそれぞれマクガーク中東調整官とウィトコフ中東担当特使を派遣し、仲介国カタールでの協議に当たらせた。特にトランプ氏は同特使をイスラエルに赴かせ、直接ネタニヤフ首相に談判させた。
ネタニヤフ首相が合意に際し発表した声明では「ガザがテロリストの巣窟にならないようイスラエルと協力したい」とのトランプ氏の発言に謝意を表明したが、かつて「ろくでなし」と罵られたとされるバイデン氏については4行目にわずかに触れているだけで、冷え切った関係を際立たせた。
トランプ氏は当選前から首相には「さっさと片付けろ」とガザ戦争の早期決着を求め、ハマスに対しては「これまでにない地獄を見る」などと脅し、大統領就任式までに停戦するよう圧力を掛けた。就任式で自らの成果を誇示したいという思惑が透けて見える。バイデン氏も退任直前にレガシーを作りたかったのは明らかで、停戦をめぐっては犬猿の仲の新旧大統領の利害が一致した。