2025年12月5日(金)

教養としての中東情勢

2025年1月20日

 しかし、ネタニヤフ首相は大きなジレンマに直面していた。政権の一角である極右の「ユダヤの力」「宗教シオニズム」の2党が、停戦に合意すれば政権から離脱するとどう喝していたからだ。トランプ氏の意向を入れて停戦に応じれば、あと2年維持できる政権が崩壊しかねず、ハムレットの心境だった。

得意の寝技で極右を分断、懐柔

 イスラエル国会は120議席。ネタニヤフ政権は過半数を超える68議席による諸政党の連立で成り立っている。しかし、ベングビール国家治安相率いる「ユダヤの力」(6議席)とスモトリッチ財務相が党首の「宗教シオニズム」(7議席)は閣議で停戦に猛反対した。閣議は最終的に賛成多数で停戦を承認した。

 ベングビール国家治安相は閣議後、政権から離脱することを書簡で通告したが、スモトリッチ財務相は政権への残留を決めた。「ユダヤの力」が去ることで、政権は62議席という過半数ギリギリの政権基盤となる。「宗教シオニズム」も離脱していれば、過半数を割って政権崩壊につながったところだった。

 停戦合意は3段階からなる。第1段階は19日から始まる6週間で、この間、ハマスが人質33人を解放するのと引き換えに、イスラエルはパレスチナ人囚人1904人を釈放する。イスラエル軍は人口密集地から撤収し、人道支援トラックを1日600台ガザに搬入する。住民の居住地への帰還を容認する。

 第2段階では、恒久停戦に向けた協議を開始し、残りの人質の解放、イスラエル軍が全面撤退を進める。第3段階では、ガザの再建協議と人質の遺体返還が実施される。だが、この計画では①合意順守の監視を誰が担うのか、②恒久停戦の交渉期限、③誰がガザを統治するのか、④ハマスの関与を残すのか――など重要な細部の詰めが全くと言っていいほど行われていない。

 人質の生存も実のところ定かではない。当初の人質は約250人。一昨年の11月に104人が解放された後、8人が救出、40人の遺体が回収された。計算上では、なお100人程度が捕らわれていることになるが、イスラエル軍の攻撃で死亡した人質が約40人いるとみられており、正確な生存数は不明だ。

 スモトリッチ財務相が今回離脱を思いとどまったのはネタニヤフ首相から“裏の約束”を取り付けたからだともいわれる。財務相は第1段階の6週間が過ぎたら「戦闘を再開する」ことや、パレスチナ自治区へのユダヤ人入植地の拡大を条件として閣内への残留を決断したというのだ。首相が得意の寝技で財務相を懐柔したのではないかとみられている。


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