今年の春闘は主要企業の多くが基本給などを底上げする「ベースアップ」に踏み切る明るい結果となった。政府が異例の賃上げ要請を行うなどここ数年とは全く異なる状況の下、多くの企業が賃上げを決断した。アベノミクスで景気が好転し、企業業績も上向く中で、企業側も前向きに対応した姿がみてとれた。
6年ぶりのベア実施という企業が多かっただけに、今年の春闘に関する新聞やテレビの報道も、昨年までと比較すれば非常に活気あふれるものだった。労使交渉の進捗にあわせて、ニュースがどんどん発信されたからだ。
交渉前から盛り上がった
トヨタのベア報道
まず、特定の企業がベアを実施するかどうかが最初のニュースになり、ベアを行う方針ならそれはいくらになのか、という点が次の焦点になる。春闘の相場づくりに影響を与える有力企業が各業種にあり、その企業がどう決断して他の企業がどう追随するか、報道面でも重層的に競争が繰り広げられた。
例えば自動車業界では、当然ながらトヨタ自動車の動向が注目された。まだ本格的な交渉が始まっていない段階から一部の新聞は「トヨタ ベア実施へ」と報じ、報道合戦の火ぶたが切られた。組合側の要求額は月額4000円で、これがどこまで認められるかが注目された。最終的には月額2700円ということで決着したが、途中段階では「月額3000円以上の攻防に入った」(東京新聞)とか、「トヨタベア3000円超検討」(読売新聞)など高めの見通し報道などもみられた。
3月12日の集中回答日の翌日、13日の新聞各紙は紙面を多く割いて春闘の総括を行ったが、その中心になったのは「政権の要請を受けた春闘」という点だった。毎日新聞は1面の検証企画で「政権要請でベアの流れ」と見出しをとり、安倍政権の要請をきっかけに賃上げの流れが形作られていった経緯を振り返った。読売新聞も3面で「高水準ベア 政権を意識」として、社会的要請に応えたとした。朝日新聞は「官製春闘 ベアの波」とやや皮肉っぽく1面トップでまとめた。