米連邦通信委員会(FCC)のブレンダン・カー委員長(左)はBBCと、米公共放送NPRとPBSに書簡を送った
ナーディーン・サアド記者、ジェイムズ・フィッツジェラルド記者、エマ・ソーンダース文化記者
アメリカの放送規制当局は20日、BBC番組「パノラマ」がドナルド・トランプ米大統領の2021年1月6日の演説の一部をつなぎ合わせた件について、BBCなどに書簡を送付した。
米連邦通信委員会(FCC)のブレンダン・カー委員長は、BBCのティム・デイヴィー会長(辞任を表明)のほか、BBCコンテンツを一部放送しているアメリカの公共放送NPRとPBSの幹部にも書簡を送った。BBCが編集された演説の映像または音声を、米国内でFCCの規制を受ける放送局に提供したかどうかを確認したいと述べている。
BBCはこれまで、問題となったパノラマの回について、アメリカ向けチャンネルで放送する権利を自分たちは持たず、配信もしていないと説明している。
トランプ氏は、番組「パノラマ」が自分を中傷したとして、訴訟を起こすと警告している。BBCはトランプ氏に謝罪したが、賠償の求めには応じないとしている。
BBCは、パノラマのドキュメンタリーが、編集によって「トランプ大統領が暴力的な行動を直接呼びかけたかのような誤った印象を与えた」と認めている。
トランプ氏は2021年1月6日にホワイトハウス近くの緑地で演説し、「議会議事堂まで歩いて行き、勇敢な上院議員や下院議員の男女を応援するぞ」と述べた。
また、その50分以上後に、「そして我々は戦う。死に物狂いで戦う」と述べた。
しかし、「パノラマ」はこれを編集で、「議会議事堂まで歩いて行き(中略)私もあなたたちとそこにいる。そして私たちは戦う。死に物狂いで戦う」と話したようにした。
この編集についてカー氏は、「その結果、BBCの番組はトランプ大統領が実際には発言していない一文を話したかのように描いている。それは、重大な虚偽かつ有害な発言を公表するという定義に該当するように見える」と書いた。
書簡はさらに、「ご存じのとおり、FCCの規制を受ける放送局には公共の利益に沿って運営する法的義務がある。その公共の利益の要件には、ニュースの歪曲や放送による虚偽の禁止が含まれる」と記している。
カー氏はまた、「BBCの誤解を招く欺瞞(ぎまん)的な行動が、FCCの規制に抵触しないかを確認するために(この書簡を)書いている」とも記されている。
BBCは、これまでの声明に付け加えることはないとしている。
BBCは先週、トランプ氏の法務チームへの書簡で、賠償の求めに応じる必要はないと考える理由を挙げた。
BBCは、「パノラマ」をアメリカで放送する権利を持たず、実際に放送しなかったと説明。BBCの配信サービス「iPlayer」での視聴も、イギリス国内の人向けに限定されていたと述べた。
また、放送後にトランプ氏は大統領選挙で当選したことから、このドキュメンタリーはトランプ氏に損害を与えなかったと主張している。
トランプ氏は14日、BBCに対する法的措置について、「そうしなくてはならないと思う」、「彼ら(BBC)はずるをした。私の口から出る言葉を変えたんだ」と述べた。
トランプ氏は、「10億ドルから50億ドルの範囲」での賠償を求めて訴訟を起こすと警告している。その後、今週末にもキア・スターマー英首相とこの問題について話すとみられているが、詳細はまだ明らかになっていない。
「パノラマ」のドキュメンタリーは、2024年の米大統領選の直前に放送され、トランプ氏はその選挙で勝利した。BBCは、この番組を今後、再放送しないとしている。
この問題は、英紙デイリー・テレグラフ紙が報じたBBCの内部メモによって浮上した。このメモは、BBCの編集指針基準委員会(EGSC)に外部顧問として関わっていたマイケル・プレスコット氏が書いたもの。プレスコット氏は「パノラマ」以外にも、BBCの報道について複数の懸念点を挙げていた。
同紙の報道を機にして批判が相次ぐなか、BBCのデイヴィー会長は9日に辞意を表明。ニュース部門トップのデボラ・ターネス最高経営責任者(CEO)も同日に辞任した。
アメリカでは、放送免許はFCCが発行し、連邦機関によって規制される。
BBCは、英通信業界の独立監視機関、放送通信庁(Ofcom、オフコム)に規制されている。
メディア法を専門とするイギリスの弁護士、マーク・スティーヴンス氏はBBCニュースに対し、トランプ氏のチームは、編集された映像がアメリカで放送されたと証明することで、FCCが管轄権を確立できると期待している様子だと説明した。
「現実には、FCCはおそらく何も得られないだろう。番組がアメリカで放送されていなければ、それはトランプ氏の主張とFCCの調査にとって致命的だ」とスティーヴンス弁護士は述べた。
BBCニュースは、FCCのほか、同委が書簡を送ったNPRとPBSにもコメントを求めている。
(英語記事 US broadcast regulator writes to BBC over Panorama edit of Trump speech)
