2025年12月14日(日)

BBC News

2025年11月26日

シュミート・バネルジー元BBC理事

1週間前にBBCの理事を辞任した人物が25日、BBCニュースに辞表の内容を公開した。これにより、BBCドキュメンタリー番組「パノラマ」による、ドナルド・トランプ米大統領の2021年1月6日の演説の編集をめぐる問題で、BBC会長とニュース部門トップが辞任に至った経緯について、新たな事実が明らかになった。

シュミート・バネルジー氏は21日に「ガバナンス上の問題」を理由に辞任したが、その詳細はこれまで分かっていなかった。

バネルジー氏がBBCニュースに公開した辞表には、厳しい批判がつづられていた。それによると、ニュース部門の最高経営責任者(CEO)だったデボラ・ターネス氏は、「理事会の過半数の信任を得ていない」と告げられたという。

バネルジー氏はまた、自分は「このような重要な問題が議論される会議に一度も招かれなかった」とも書いている。

辞表の詳細は、BBCのサミール・シャー理事長がイギリス下院の文化・メディア・スポーツ委員会の公聴会で、バネルジー氏と「26分間電話で協議した」と証言した翌日に明らかになった。

バネルジー氏は25日、下院委員会での議論を興味深く見守っていたと、BBCニュースに語り、「辞表から私の辞任理由が明確になるかもしれない。また、委員会や視聴者の間に生じたであろう誤解を解く役割も果たすかもしれない」と付け加えた。

BBCのティム・デイヴィー会長とニュース部門のターネスCEOは、BBC番組「パノラマ」がトランプ米大統領の2021年1月6日の演説の一部をつなぎ合わせたことをめぐり、辞任した。この編集映像は、2024年の米大統領選の直前に放送された。

この問題は、BBCの元外部顧問マイケル・プレスコット氏がBBC理事会に送った内部メモが流出し、その詳細を英紙テレグラフが11月3日に報道したことで初めて明らかになった。

以来、BBCの監督や戦略策定を担う理事会の運営方法について、一部から懸念が上がっている。

BBC会長らの辞任めぐる会議に「招かれず」

バネルジー氏は辞表の中で、「私に相談なく、かつ十分な議論がなされたとも思えない理事会の決定に、私が加担したとはみなされないだろう」と書いた。

24日の下院委の公聴会でシャー理事長は、バネルジー氏の辞任について議員から直接質問を受けた。シャー氏は、デイヴィー氏とターネス氏の辞任について相談を受けなかったとするバネルジー氏の主張は事実ではないと主張した。

「彼(バネルジー氏)の発言には失望し、驚いている」とシャー氏は答え、「彼は相談を受けていた」と反論した。

しかし、BBC会長とニュース部門CEOの辞任に至るまでの経緯について、バネルジー氏の辞表には異なる内容が記されている。それによると、プレスコット氏の内部メモ流出を受け、BBCの危機的状況について理事会は2回、協議を行ったという。

バネルジー氏は最初の会議には出席できなかった。同氏は、2回目の会議の時点で、ターネス氏が「過半数の信任を得ていない」と告げられたことに驚いたとしている。

「私は、このような重要な問題が議論される会議に一度も招かれなかった」と、バネルジー氏は辞表に書いた。

「あなた(シャー理事長)の事務所から緊急に議論する必要があると求められたこともない。私は昨日、あなたとの電話協議を要請した」

「あなたは各理事に賛否を尋ねたかもしれない。しかし、重要な問題について理にかなった議論を行うことが、理事会の存在理由だ。それが実際には行われなかった」

バネルジー氏はまた、デイヴィー氏の辞任には驚かなかったとした。それは、デイヴィー氏はニュース部門トップに対する不信任を、「編集主幹兼CEOであるデイヴィー氏自身への直接攻撃」と捉えたと思うからだと説明した。

バネルジー氏は、BBC理事会は「報道による激しい非難の熱気の中で」対応したと示唆したうえで、 「情報を流出させて攻撃すればいいと、BBCに批判的な人々は学んだ。尊敬され愛されていた最高幹部2人の辞任が、BBCをより強い組織にするだろうか? どういうわけか、私はまったくそうは思わない」と、辞表を締めくくっている。

下院委のキャロライン・ダイネージ委員長は24日、シャー理事長の地位について尋ねられると、「BBCは、会長と理事長が不在というわけにはいかない。指導陣交代へ進む作業を主導する誰かが必要だ。ただし、今の理事会がしっかり安全に運営されていると、私たち委員会が熱烈に確信したとも思えない」と答えた。

こうした中でバネルジー氏の辞表が公開されたことで、シャー理事長への圧力が高まることとなった。

この辞表は、BBCで危機状況が続く中で、その舞台裏で何が起きていたかを示すものでもある。下院委の公聴会で、BBCの理事らは団結を強調していたが、辞表には異なる状況が記されていた。

また、BBCのキャロライン・トムソン理事が、「継続的かつ鋭い意見の相違」があるとした状況にも説明がつく。

BBC理事会が、トランプ氏の演説の編集をめぐり、ターネス氏やニュース部門が謝罪文を公表することを阻止したとも、BBCニュースはすでに報じている。

24日の下院委の公聴会でシャー氏は、トランプ氏の演説編集の問題についてBBCの対応が遅すぎたと委員会に認めた。トランプ氏への謝罪についても「何に対して謝罪するのか、それが十分な根拠に基づいた全く正しいものだと確認する必要があり」、「時間がかかった」と説明した。

一方でバネルジー氏は、理事会が、ターネス氏がニュース部門トップの職に留まれないようにしたと示唆している。

関係者の一人は、ターネス氏は理事会への信頼を失い、理事会を「内部抗争で混乱している組織」と見ていたため、すでに辞任を決意していたのだと語った。

危機的状況が回復不能なところまで悪化し、ターネス氏は辞任するのが正しい選択だと感じたのだと、この関係者は付け加えた。

バネルジー氏は非業務執行取締役として2、022年から理事を務めた。テクノロジー企業に特化した助言・投資会社の創業者で、かつては経営コンサルティング会社ブーズ・アンド・カンパニーを率いていた。

12人から成るBBC理事会は、BBCが確実に公共サービスの使命を果たせるよう、受信料に大きく依存するBBCの戦略的方向性を定める責任を担っている。

非業務執行取締役は、BBCの経営陣を監督する役割を持つ。元ドキュメンタリー制作者のシャー氏が理事会を率いている。

(英語記事 Ex-BBC board member criticised chair's handling of bias crisis in resignation letter

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cpq49jvd75qo


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