横浜、神戸とは異なる発展をしてきた京都の洋食。その代表的なお店が柳馬場 押小路上ルにある「洋食おがた」。オーナーシェフの緒方博行さんに話を聞いた。
10年前のことです。勤めていたビストロを辞めて、故郷の熊本に帰って店を出すつもりだと、常連客である経営者に打ち明けました。
緒方博行(Hiroyuki Ogata)洋食おがた オーナーシェフ
1969年熊本県生まれ。ホテル、レストランなどで修業を積み、2007年、京都の「ビストロセプト」で料理長に就任。2015年に「洋食おがた」を創業。(写真・井上智幸 以下同)
1969年熊本県生まれ。ホテル、レストランなどで修業を積み、2007年、京都の「ビストロセプト」で料理長に就任。2015年に「洋食おがた」を創業。(写真・井上智幸 以下同)
すると「僕が食べに行くところがなくなる」とおっしゃったんです。しかも、京都で独立するなら出資もしてくれると言います。融資してくれる銀行も、税理士さんもご紹介していただきました。おかげでお店が軌道に乗った今でも、私は料理づくりに集中することができています。
京都の独立系レストランなどではこうしたお店が少なくないと思います。リスクをとってでも、自分たちの日常の食生活を豊かにしたい。
こうした文化、飲食店を育んでいく「エコシステム」があるのは日本の中でも京都だけではないでしょうか。
お店を出すことはもちろん、私という料理人は、京都の人々に育てていただいたと言っても過言ではありません。京都に来た当初、あるお客様からこんなことを言われました。「京都と思って薄味にしてるやろ。あそこのラーメン屋に行ってみ」。
実際に行ってみると、驚くほど塩味のパンチが効いていました。なるほど、出汁を使う京料理はあっさりしていますが、それ以外では濃い味が好まれるんだと、その時初めて知ったんです。
食材に関してもそうです。お客様から様々な地域の食材をご紹介していただくことで料理の質を高めることができました。看板メニューの一つであるハンバーグで使う牛肉は熊本・阿蘇草原あか牛の生産者から提供していただいています。この肉を使って最初にハンバーグをつくったときに、肉の質で、味もここまで変わるのかと驚きました。明らかに違うんです。
