香港北部の大埔(タイポ)にある高層住宅群で炎と煙が広がり、住民らは衝撃を受けた
「(建物に)近づくと熱いし、濃い煙が上がっている」
香港北部・大埔区の火災現場に集まった群衆の中にいた、学生のトマス・リウさんはそう言った。炎は8棟からなる高層住宅群「宏福苑」の大半を焼き尽くし、多数の死者を出した。
26日に発生した火災は壊滅的な被害をもたらしている。27日午後までに少なくとも55人が死亡し、数百人が行方不明のままだ。被害者数はさらに増えると予想されている。出火原因はまだわかっていない。
トマスさんはBBCに、遺体が運び出されるのを目撃したとし、「これは大惨事だ」と語った。
大埔区の梅少峰(ムイ・シウフォン)議員は、「私たちのところに、たくさんの人からワッツアップでメッセージが届き、電話もかかってきた。まだ親族が(建物の)中にいるとか、見つからないという内容だった」と、BBC中国語に話した。
炎が広がる中、1000人以上が住宅群からの避難を余儀なくされた。火災を受けて設置された避難所へ向かった人もいた。警察は近隣の建物からも人々を避難させた。
27日朝の時点で、火災は徐々に制御されつつあるが、当局は完全な鎮火の見通しは立っていないとしていた。多くの人が沈黙して見守る中、各棟からは炎が噴き出し続けていた。
火災が起きた住宅群に友人が住んでいるという女性は、友人が無事に脱出できたかどうか知らせを待っていると語った。
高層住宅群「宏福苑」の第2棟で40年以上暮らしているというハリー・チャンさん(66)は、「すごく大きな音」が聞こえ、近くの棟が燃えているのが見えたと、ロイター通信に26日夜に語った。
ハリーさんは、「すぐに(家に)戻って荷物をまとめた」という。
「今の自分の感情すらよく理解できていない。今夜どこで眠るのかだけを考えている。おそらく自宅には戻れないだろうから」
隣接する高層住宅群「廣福邨」で暮らす、カムという名字の60代の女性は、「宏福苑」に友人数人が住んでいるが、一部は無事が確認できていないと、香港の英字紙サウスチャイナ・モーニングポストに語った。
カムさんの友人の1人は、午後に昼寝をするのが日課で、午後2時51分に火災が発生した当時も眠っていた可能性があるという。友人の娘たちも、母親と連絡が取れていないという。
別の住民のジェイソン・コンさんは、隣人から電話がかかってきて、高層住宅の中に閉じ込められていると伝えられたと、ロイター通信に語った。
「ショックで打ちのめさている。たくさんの隣人や友人がいるというのに。もう何が起きているのかわからない。見てください。あらゆるアパートが燃えている。どうすればいいかわからない。私達が今後落ち着いて生活できるよう政府が支援してくれることを願っている」
影響を受けた棟の一つで暮らす高齢女性は、火災発生当時は自宅にいなかったが、保険に入っていないため自宅のことが心配だと、BBCに語った。
「今はもう帰る家がなくて、すごく動揺している」
複数の高層住宅を飲み込んだ火災の原因はまだ分かっていないが、高層住宅は改修工事中で、建物の外側に竹製の足場が組まれていた。それが炎の急速な拡大につながったとみられている。
一部の人からは、これほど大規模な火災が起きたことへの怒りや、当局の対応への批判が上がっている。
「山火事ならヘリコプターを投入して水を投下するのに、なぜ今回はそういう出動がないんだ。ほかの建物が燃えているのを、どうして放置できるんだ」と、「宏福苑」の60代の住民プーンさんは疑問を口にした。
「ここのコミュニティーは消防署のすぐ近くにあって、すぐに消火できると思っていた。それなのに、燃え広がってしまった。本当にがっかりだ」と、プーンさんはサウスチャイナ・モーニングポストに語った。
また、どこに助けを求めればいいのか、政府からは何も指示がないとも指摘した。
香港政府トップの李家超(ジョン・リー)行政長官は、政府機関が火災の影響を受けた住民を支援していると述べている。
BBCは、火災の影響を受けた人々に毛布やカイロなどの物資を届けた、大埔の住民数人に話を聞いた。
住民たちに、火災についてどう思うか尋ねると、「政府は無能だ」、「とてつもなく心が張り裂ける思いだ」などと答えた。
「これ以上犠牲者は出てほしくない」と、住民の1人は話した。
(英語記事 'I am devastated': Hong Kong residents in disbelief after fire destroys blocks of flats)
