2025年12月14日(日)

BBC News

2025年11月28日

フランス陸軍の兵士らを視察するエマニュエル・マクロン大統領(27日、ヴァルス)

ヒュー・スコフィールド・パリ特派員

欧州でロシアとの対立への懸念が高まる中、フランスで限定的な兵役が復活する。フランスで徴兵制が廃止されてから25年以上になるが、この計画では、若者が有給で10カ月間の軍事訓練に志願することになる。

エマニュエル・マクロン仏大統領は27日、南東部グルノーブル近郊の歩兵基地でこの計画を発表し、「危険を避けるには、危険に備えるしか方法はない」と述べた。

「我々は動員しなくてはならない。国を守り、備え、尊敬され続けるためには、動員しなくてはならない」と、大統領は強調した。

マクロン氏はさらに、「力が正義に勝るこの不確かな世界では、戦争は現在形だ」と述べた。この計画によってフランス軍が意欲ある若者から恩恵を受けるとし、「これは若者に対する、我々の信頼の行為だ」とも話した。

この新しい「国家奉仕」制度は、来年夏から段階的に導入される。主に18歳と19歳が対象となり、月額少なくとも800ユーロ(約14万円)が支給される。

来年は人数を3000人に制限するが、2035年までに5万人に増やす予定だという。

フランスには現在、約20万人の軍人と4万7000人の予備役がいる。新しい制度によって、フランス軍は職業軍人と予備役に志願者を加えた3層構造を導入することになる。

この変更によりフランスは、ロシアの侵略への懸念からさまざまな条件で兵役制度を導入している他の欧州諸国と足並みをそろえる。

ベルギーとオランダは志願制の兵役を導入しており、ドイツも同様の計画を進めている

ベルギー国防省は今月、17歳の国民に対し、月額約2000ユーロ(約36万円)で志願を呼びかける書簡を送った。

東欧では、リトアニアとラトヴィアが、抽選で候補者を選ぶ義務的な制度を採用している。2024年に北大西洋条約機構(NATO)に加盟したスウェーデンは、能力に基づく選抜による、9~15カ月の兵役を開始した。

フィンランドやギリシャのように、兵役をずっと維持している国もある。一方スイスでは30日にも、男性のみの義務的兵役を全員の義務的市民奉仕に置き換えるかどうか、国民投票で決める予定。

イギリスやスペインなどは、現時点で兵役再導入を計画していない。

フランス軍の幹部の大半は、新施策を支持している。新制度によって、訓練を受けた人員が職業軍人の代わりに後方支援の業務にあたるなど、職業軍人を支援できる体制を作れると期待している。

また、多くの志願者がそのまま残り、職業軍人になることも期待されている。

「新しい兵役は、軍のハイブリッド化に向かうものだ」と、国民議会のトマ・ガシユー国防委員長は述べた。「我々はこれまで、軍の全員を職業軍人にしようとし過ぎていた」。

フランスでは、ロシアとのあいまいながらも差し迫った対立の脅威が、国を挙げて議論されている。政府は、水面下の事案が相次いでいることや、ロシア政府がソーシャルメディアを通じて世論を操作しようとしていると、繰り返し国民に警戒を呼びかけてきた。

9月に統合参謀総長となったファビアン・マンドン将軍はこれに先立ち、フランスの軍事計画が今後3〜4年以内にロシアとの対立が起きると想定し、それを前提に構築されていると述べ、国民に一層の警戒を求めた。

さらに先週には市長らの集まりで、フランスに欠けているのは犠牲の精神だと述べ、「子どもを失う」可能性に世論を備えさせるよう促した。

この発言は、極左と一部の極右から直ちに非難され、政府内でも有益ではないと見なされた。マクロン大統領は先週末、若い志願兵をウクライナで戦わせる計画はないと述べ、国民に安心させようとした。

世論調査では、任意の兵役に賛成する国民が大多数を占めている。調査会社エラブが今週行った調査では、73%がこの措置を支持した。支持する回答が最も少なかったのは25~34歳の若者だったが、この層でも60%が賛成した。

パリの街頭でBBCが無作為に行った意見調査でも、同様の傾向が見られた。

「良いことだ」と、学生のルイ氏(22)は語った。「軍を大きくすることにつながるし、国をもっと愛する方法でもある」。

別の学生エイラン氏はこう述べた。「兵役では、あらゆる場所から来た人々に出会う。物事の新しい見方を学ぶし(中略)他人と話し、信頼し、共存することを学ぶ」。

「新聞で読んだ限り、この国の陸軍はそれほど強くない。なので、将来に備える必要があるなら、これは良い考えかもしれない」と舞台美術家のブリジット氏は述べた。

しかし、21歳の販売員ラリー氏は賛成しなかった。

「もっと重要な問題があると思う。大統領が実は若者のことに関心がないのは、残念だ。若者のメンタルヘルスや経済状況より、この兵役の方を重視している」

「国民皆兵」から「平和の配当」へ

フランスでは1996年、当時のジャック・シラク大統領がソ連崩壊後の「平和の配当」の一環として、兵役を廃止すると決定した。

若者への義務的な軍事訓練は、フランス革命以来、国民生活の一部だった。革命は「国民皆兵」という概念を生み出した。

1798年に制定された徴兵法には「すべてのフランス人は兵士であり、祖国防衛の義務を負う」と記されている。また、1871年にプロイセンに敗れた後、共和主義を唱えた政治家レオン・ガンベッタ氏は「フランスで市民が生まれるとき、その者は兵士として生まれる」と述べた。

フランスの徴集兵が戦った最後の紛争は1950~60年代のアルジェリア独立戦争で、死者は1万2000人を超えた。

1990年代までに兵役は10カ月に短縮され、代わりに民間業務を選択することも可能になった。

最後の徴集兵が2001年に退役して以来、兵役の精神を何とか維持しようとする取り組みが、あいまいながらも続いてはいた。支持者は、兵役が結束と平等の意識を育むと主張していた。

高校生は今も「防衛と市民の日」に参加し、権利と義務に関する講義を受け、国旗掲揚式に出席する必要がある。

マクロン大統領は、第1期の2018年に「普遍的国家奉仕」を設けた。これは市民の責任と実践的訓練に関する4週間のコースで、2010年代のテロ攻撃後に国家の連帯を構築することを目的としていた。しかし、この制度は高額で出席率の低い「ホリデーキャンプ」と酷評され、今年初めに廃止された。

今回の新制度はおおむね好意的に受け止められているようだが、財源については不明点が残る。フランスでは債務危機が迫っており、議会は2026年予算を承認できていない。

(英語記事 France to bring in form of military service, 25 years after conscription was phased out

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c36z0en7kz3o


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