2024年4月25日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2014年8月20日

 かくして、米国は現在持っていない梃子を持つことにより、長期的により安定した東アジアの軍事バランスの実現に貢献できるかもしれない、と述べています。

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 これは、考察に値する提案です。ミサイル戦力増強の理由として、当初、中国が挙げていたのは台湾情勢でしたが、中国は、その後もミサイル戦力を継続的に大幅増強しており、増強が台湾情勢に対処するだけのものではなかったことは、明らかです。

 中国のミサイル戦力の継続的増強が、米ロ両国にとり深刻な問題になりつつあるのは疑いありません。ロシアはINF条約に違反して新しい中距離ミサイルの実験をしていると報じられていますが、これは中国のミサイル戦力の増大を念頭に置いてのことと見られます。他方、中国のミサイル戦力の充実により、アジア太平洋地域の米軍基地や戦艦が攻撃にさらされる危険が高まり、地域の安全保障が危うくなる恐れがあります。

 このような事態にいかに対処すべきかであるが、INF条約の破棄、INFへの中国の参加が現実的に考えられないので、第3の方法として、米ロの欧州における中距離ミサイルの配備は依然として禁止するが、アジアでは認めるようにINF条約を修正したらどうかというのが、モンゴメリーの提案です。

 この提案には、モンゴメリー自身が指摘しているように、多くの問題がありますが、モンゴメリーは、米ロがINF条約の修正を検討すること自体が中国をジレンマに陥れ、中国は、米ロのアジアにおける中距離ミサイルの配備を避けるために、自身のミサイル戦力の規制の話し合いに応じるかもしれないと言っています。

 ただ、中国がモンゴメリーの言うように、米ロの配備に対抗してミサイル戦力の一層の強化をすれば、東アジア全域を反中にしかねないと考えて強化を躊躇するかどうかは疑わしいところです。むしろ、このようなINF 条約の修正が、アジアにおける米中ロのミサイル軍拡競争をもたらす可能性があると考えられます。

 このようにINF条約の修正案はモンゴメリーの期待するような結果をもたらさないかもしれませんが、この論説は、中国のミサイル戦力の強化がアジア太平洋地域の安全保障にとって重大な問題であり、何らかの対抗措置を講じなければならないことを再認識させるメッセージとして価値があります。

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