これらの施策を一つの体系として捉える鍵は、各国が自らの進路を決定する「自律性」と、危機や威圧にさらされても社会と経済の機能を維持する「強靱性」にある。
一貫した政策体系に
欠かせない論理
重要物資の輸出停止、デジタル基盤の特定国への依存、経済的威圧、海洋における力の行使は、一見すると異なる政策領域の問題でありながら、各国の意思決定を外部から拘束するという共通の性格を持つ。この観点からみれば、進化版FOIPは、安全保障の射程を海洋秩序に加えて経済社会の基盤へと広げ、経済、技術、安全保障にまたがる施策を、各国の政治的選択の自由を支える一つの政策体系として捉え直す試みと位置づけられる。
しかし、そこから日本が目指す地域秩序像を読み取ることはなお難しい。地域諸国の期待は、個別協力の拡充に加え、変動する国際環境の中で自らの選択を支える将来像にも向けられている。問われるのは、施策の総体が地域諸国の自律性と強靱性をいかに高め、米国の関与を地域の安定に結びつけ、中国との競争と協力を透明なルールの下で管理し、その中で日本がいかなる役割を担うのかという秩序形成の論理である。
この論理の下で各施策の相互関係と累積的効果が示されて初めて、個別事業は地域の安定に向けた意味を持ち、一貫した政策体系となる。現状では、政策手段の厚みに比して、その帰結を示す秩序像は不鮮明で、FOIPの全体像も見えにくい。「進化」が想定する漸進的な発展と、国際環境の非連続な変化との間には大きな隔たりが残る。
この課題は、日本外交が地域政策を形成する際の順序にも深く関わっている。対米調整を起点として政策を組み立てる慣行の下では、地域諸国との協力が米国の戦略を補完する手段として映り、日本が地域固有の利益から秩序を構想する主体性も見えにくくなる。
現在、FOIPが掲げてきた自由、開放性、法の支配は、中国による力と威圧に加え、相互関税に象徴される米国の保護主義と取引主義によっても揺さぶられている。ベネズエラやイランへの軍事行動も、法の支配との整合性に疑念を生じさせている。そのうえ、米国のアジア関与が選択的かつ取引的な性格を強める中、同盟管理上の配慮を優先するほど、日本独自の秩序構想は後景に退きやすい。日本に求められるのは、地域諸国の利益と需要を起点として秩序を構想し、その実現手段として日米協力を位置づけるという、FOIP提唱時の政策形成の順序を回復することである。
