2026年米中間選挙において、南部テキサス州は共和・民主両党にとって最重点州の1つである。というのは、共和党はテキサス州の連邦上院議員選挙で民主党に現議席を奪われると「Game is over(試合終了)」、つまり、同選挙における敗北が決まり、民主党が多数派を握るとまで言われているからである。
テキサス州では1993年から33年間、州の連邦上院議員の議席を共和党が支配してきた牙城だが、今、変化が起きている。テキサスA&M大学とシエナ大学リサーチ研究所によるテキサス州在住の投票に行く可能性が非常に大きいと推計される有権者を対象にした共同世論調査(2026年9月8~11日実施)をみてみよう。同調査では、民主党連邦上院議員候補ジェームズ・タラリコ氏(以下、初出以外人物に付する敬称および官職名略)の支持率は49%、共和党連邦上院議員候補ケン・パクストン氏は43%で、タラリコがパクストンを6ポイント上回っている。7月の同調査では、4ポイント差であったので、タラリコのリードは広がっている。
以下では、州都オースティンがあるトラビス郡の民主党フィールドオフィス(有権者登録用紙の配布や戸別訪問を実施する現地事務所)で行った現地調査を含めながら、タラリコ勝利の可能性について述べていく。
トランプがつけたニックネームを逆手にとるタラリコ
テキサス州ラウンドロック(州都オースティンから北に約30キロ)出身のタラリコは現在37歳で、同州の下院議員である。地元のテキサス大学オースティン校を卒業し、ハーバード大学で教育政策を学び修士号を取得した。その後、同州サンアントニオ西部にある貧困地域で英語教師を務めていた。このときの経験が政治の道に進むことになった。「タラリコ」は、実母が離婚した後に再婚した義理の父親の苗字である。
ドナルド・トランプ米大統領は、タラリコに「Talafreako(タラフリーコ)」という侮蔑的な政治的ニックネームをつけた。「freak(奇妙な行動や特徴を持つ変わり者)」とタラリコをかけあわせて呼んでいるのだ。これまでにトランプは、自分に対して脅威となるような存在(敵)に対してニックネームをつけたり、レッテルを貼ってきた。
例えば、ヒラリー・クリントン元国務長官やジョー・バイデン前大統領、マルコ・ルビオ国務長官などに見下すようなニックネームをつけて、彼らに対して敬意に欠いた態度をあからさにとってきた。それに対して、民主党候補は効果的な対応ができなかった。
しかし、タラリコはトランプが自分につけたニックネームを逆手にとった。筆者がトラビス郡にある民主党のフィールドオフィスを訪問すると、地域オーガナイザーの肩書を持つアンディ・ベルトラン-ガルシア氏が、「I’m A Talafreako」とプリントされた1枚のTシャツを、笑みを見せながら自慢げに見せてくれた。「freak」には「特定のことに異常に熱中する『マニア』『愛好家』ないし『熱狂的ファン』」という意味もあり、Tシャツを着用している支持者は、「自分はタラリコの熱狂的なファンです」というメッセージを発信していることにもなる。
このTシャツは支持者の間で大人気の商品になっている。トランプのニックネーム作戦は、タラリコ支持者の結束を強め逆効果になった。
「サーバントリーダーシップ」
ニックネーム作戦に加えて、トランプの「民主党=共産主義」のレッテル貼りも、テキサス州では効果を上げていない。ゾーラン・マムダニ候補(当時)が、民主社会主義を前面に出して、ニューヨーク市長選に当選(2025年11月4日)すると、トランプは民主社会主義を共産主義にすり替え、「民主党=共産主義」のレッテル貼りをした。彼はこれを今秋の米中間選挙の選挙戦略の中核に据えた。
だが、タラリコは自身を民主社会主義者であると名乗っていない。代わりに彼は、自身を信心深いキリスト教徒として有権者にアピールしている。
タラリコの母方の祖父はキリスト教の牧師であり、彼はその祖父からキリスト教の教えを授かった。オースティン長老派神学校で2022年8月から在籍し、神学を学んでいる。彼は、キリスト教の「隣人愛」の価値観を尊重する。
さらに、タラリコは共和党のキリスト教国家の再建を目指す「キリスト教ナショナリズム」を厳しく批判している。キリスト教ナショナリズムは排他的であると言うのだ。
タラリコの演説で注視すべき点は、「serve(仕える)」という単語を頻繁に使用し、自身を「人々に仕えるリーダー」「人々に尽くすリーダー」、即ち、「サーバントリーダー」として描いている点である。タラリコは演説でイエス・キリストの教えを引用し、「本当の偉大さは(人々に)仕えることにある」と語り、「権力と富ではない」と言い切る。タラリコの「サーバントリーダーシップ」は、トランプの「力のリーダーシップ」とは極めて対照的である。
また、タラリコは一般の人の中には家を所有できない人がいるが、パクストンは15軒もの不動産を所有しており、公職の給料で億万長者になったと批判を繰り返す。パクストンは人々に仕えるのではなく、権力と富を求めていると指摘している。
共和党はタラリコにキリスト教の穏健派、福音派の一部や保守層の票を奪われることを強く警戒している。
ただし、タラリコの富裕層への課税や国民皆保険制度の導入といった政策は民主社会主義と類似している。彼は「新しいアメリカン・ドリーム」をスローガンに掲げ、「現在のアメリカン・ドリームは悪夢である」と繰り返し述べる。
米CBSニュースとユーガブの全国共同世論調査(2026年8月12~14日実施)によれば、調査対象となった45歳以下の米国民の内、53%が「両親の世代よりもチャンスが少ない」と考えている(図表1)。
タラリコは、アメリカン・ドリームの実現に対して疑問を抱く有権者の気持ちを汲み取り、「高くて家を購入できない」「結婚しても生活費が高くて子供を持てない」「老後の生活費の目途が立たなくて、安心して定年退職ができない」というメッセージを発信している。その上で、彼は「左派対右派」のイデオロギーの戦いではなく、「富裕層対低所得者層」という富を巡る経済格差の戦いであると強調するのだ。
タラリコの政策は民主社会主義的であるが、今後も彼は敬虔なサーバントリーダーのイメージを前面に出し、その結果、共和党支持のキリスト教徒の票が奪われる可能性は大である。

