もともと、どのトマトにも一定量のGABAは含まれている。意図的に水分の補給を少なくしてストレスを与えるとGABAの量は増え、この方法で栽培されたトマトがGABAの多いトマトとして売られている例もある。だが、このストレスをかける方法だと収量が落ちたり、GABAが多い段階で早採りするため、完熟本来のうまみや甘みが損なわれるおそれがある。
これに対し、ハイギャバトマトはそういうストレスを与えることなく、従来の栽培法のままでGABAの含有量がもっと多いトマトを収穫できる。生産者が「従来と差を感じない」と言う言葉には、こんな理由もあったのだ。
最大のメリットは全量買い取り
ではなぜ、栽培を始めたのか。兄が約10年前にゲノム編集トマトに興味をもち、筑波大学まで行って、江面浩教授からそのメリットなどを聞いていた。そんな経過で興味を持ち、栽培を始めた。
ハイギャバトマトを栽培する一番のメリットについては「サナテックが一定の価格で全量を買い取ってくれることだ。以前の市場向けトマトに比べて、売れ残りの心配がないから安心して作れる。ほぼ毎日出荷している。収量は10アールあたり月間5トン前後。以前に比べると収入が増え、経営が安定してきたと感じる」と経営面のプラス効果を強調した。
隣のハウスに行くと若い男性スタッフがこれから植える予定の高さ50センチほどのハイギャバトマトの苗をもっていた。今から植えると、花が32~33回咲くため、来年8月までずっと収穫できるそうだ。
「ゲノム編集トマトを栽培することに抵抗はあるか?」と聞くと「ないです」との答えが返ってきた。ゲノム編集トマトに関しては、周囲の農家と話すこともほとんどなく、周囲の農家はゲノム編集かどうかよりも、自分の畑の雑草駆除がうまくいくかどうかの方がよほど心配しているのではという。
今後の抱負については、大島さんは「このハイギャバトマトをきっかけにサナテックと親密に情報交換をさせていただき、新たな新品種の栽培にチャレンジし、マーケットニーズに柔軟に対応しながら安定した農業経営を目指したい」と語った。
大島さんの話を聞いて思った。この栽培委託モデルなら、ハイギャバトマトの需要がさらに伸びれば、大島さんのような生産者はこれからもどんどん出てくるのではないかと。ハイギャバトマトの生産施設は、すでに北海道、青森、栃木、茨城、千葉、広島、熊本など10県を超える。ハイギャバ人気が続けば、さらに産地は増えるだろう。
ここで一言断っておきたい。栽培施設の場所を明記せず、経営者の名前を仮名にしているには理由がある。かつて、ある県で栽培施設のブレーカーが何者かによって落とされ、トマトの商品価値がなくなってしまった事件がある。つまり、反対派の攻撃のターゲットにされないよう、栽培施設や会社名が特定されないように気を付けているのだという。
ゲノム編集技術に関するリスクコミュニケーションや対応は著書『バイテク農業の未来・遺伝子組換え作物とゲノム編集食品』でも取り上げている。ゲノム編集食品の裏にはこういう悩ましさが伴うこともぜひ知っておきたい。
