かつて神戸に本社がある外資系会社に勤めていた際、東京へ単身赴任していた時期があった。つらい仕事の連続だったが、「新幹線に乗れば2時間半で子供に会える」という事実が、心の支えになった。実際、最終が出発する間際までオフィスで仕事し、ぎりぎりで飛び乗ったこともあった。「しかも、乗ってしまえば、また仕事を続けられるわけですから」と振り返る。
「でも、新幹線を全面的に信頼できるのも、列車が安全で確実に運行するために、陰で粉骨砕身の努力をしている人がいるからでしょうね。その点は、テーマパークとも似ています」
森岡さんによれば、テーマパークは24時間眠らない施設。とくに客が帰った後の夜に設備のメンテナンスという重要な仕事が待っているという。
「法律が定めるところよりもずっと厳しい基準で、機材を点検しています。過去に世間を騒がせたこともありますが世界中のユニバーサル・スタジオ系のテーマパークでは、これまで死亡事故を起こしたことがないんです。確率理論から言えば、ミスやトラブルは必ず起きるものですから、これは奇跡に近い。我々が秘かに誇りに思っていることです。新幹線も、車内の乗客の死亡事故ゼロという記録を続けていますよね。人の命を預かるのですから、それはあたりまえのことかもしれませんが、そのあたりまえを続けることの難しさを、日々痛感してます」
ハリー・ポッターのアトラクション内を動く乗り物には、異物を検知する高感度センサーを何百個もつけている。試運転時から、運行の担当者には「異常を示すサインが出たら、迷わずに止めろ」と言っていたが、オープン初日から止まる事態が起こり、新聞記事になった。
「レールの近くにある、埃のような小さな異物が原因でした。そんな微細な異常を感知する必要があるのか、と問いただされましたが、『ある』と明言しました。そこまでしなければ、安全性は担保できないんです」