しかし、「責任ある態度」を維持しているとはいっても管理運営するのは企業である。経営を軌道に乗せ黒字化できなければ発電所の持続可能な運営は不可能だ。チベットの水力発電所が直面する問題は、辺鄙な地理的状況による交通条件の悪さや工事の難度の高さから発電所建設費用や送電コストが高く、四川省や雲南省での発電コストの倍以上でキロワットあたり2万元と競争力がないことだという。国の補助金とともに、外への送電を軌道に乗せなければ立ちいかないようだ。
生態系破壊への懸念を持つのはインドだけではない。カナダのコラムニスト、マイケル・バクリー氏によるドキュメント「メルトダウン・イン・チベット」というドキュメンタリーフィルムでダム建設が生態系に与える影響に対し警鐘が鳴らされており、日本でもアルピニストの野口健氏等によって紹介されたこともある。
中国は「インドが脅威を誇張」と逆切れ
インドのメディアはヤルツァンポ川(下流のインドでプラマプトラ川と呼称)での水力発電所建設がインドの国家利益を損なうと批判している。発電所が2010年9月末に着工してからインドの懸念が高まる一方だが、この間『DAM999』という映画さえ作られた。ダム決壊で町がのみ込まれ多くの犠牲者が出るというパニック映画だが、興味深いのは映画の冒頭で藏木ダムへのあてつけのように「中国で1975年に起きたダム大惨事の犠牲者25万人に捧げる」(河南省の板橋ダムが決壊し、25万人が犠牲になったと言われる)とテロップが流れる。ダム決壊を伝える報道シーンでも中国での惨事に言及している。
インドやバングラデシュでは、インドの国境からわずか30キロしか離れていないダムによって水量が減るのではないかと懸念が高まっていたが、これに対して中国側は、ダムは発電のためであり、灌漑や工業に使わないから水量が減る事はないと説明する。それでもインドの懸念は払拭できていない。