2023年2月7日(火)

中国メディアは何を報じているか

2015年1月6日

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弓野正宏 (ゆみの・まさひろ)

早稲田大学現代中国研究所招聘研究員

1972年生まれ。北京大学大学院修士課程修了、中国社会科学院アメリカ研究所博士課程中退、早稲田大学大学院博士後期課程単位取得退学。早稲田大学現代中国研究所助手、同客員講師を経て同招聘研究員。専門は現代中国政治。中国の国防体制を中心とした論文あり。

 インドの懸念払拭がなかなか困難なためか中国側はいら立ち、逆切れ気味だ。中国で河川政策を担う水利部傘下の水電設計計画院の李原園副院長は、チベットでの水力発電所建設が批判されるが大げさな誇張と主張する。「インドのメディアは疑心暗鬼で草木さえも敵に見えるようだ」と批判する。インド・メディアは中国の発電所建設がインドに洪水や土石流をもたらし、生態系にも影響を与え、中印衝突時には、中国は川のせき止めインドを牽制するかもしれないと懸念を露わにする。インド・メディアが脅威を大げさに煽ることで利益を得ていると指摘する中国のインド専門家もいる。民族主義的感情を煽って多くの票を得ようとしているというのだ。

水資源を巡る国際係争

 水資源の問題は、アジアでの係争の原因の一つとなってきたにもかかわらず、どの国も自身の足かせになりかねない「国際河川の非航行利用法条約」への締結を渋っている。この点でドナウ川流域国での協力関係が築かれている欧州と異なる。中国を流れる国際河川はヤルツァンポ川に加え、怒江、瀾滄江等大きなもので214あり、流域国は50カ国を超え、世界の47%の土地、40%の人口に関わるため紛争の導火線になりうるという。中国は周辺諸国と河川共同管理協定を結んでいないから、今後係争となる可能性があるという。

 中国とインド、インドとパキスタンは水資源利用を巡り、これまではつばぜりあいを繰り広げてはいるが、一定の協力も維持してきた。しかし、相互の不信は根強い。将来的に水資源の争奪戦が石油や天然ガス等に取って代わり、国家戦略的レベルまで高まり、各国間係争の中心的争点になると予測する専門家もいる。

 中国の発電所建設をインドが指をくわえて見ているわけではない。インドはここ数年、相次いで「北の水を南に運ぶプロジェクト」や「内陸部の河川網整備プロジェクト」を策定している。2012年初め、インド紙はインド国家火力発電(NTPC)社がヤルツァンポ川下流での大型水力発電所建設の実施可能性調査書を完成させたと伝えた。この発電所に今後10年間で1兆ルピー(約200億ドル)投資する計画という。ある資源を先に利用しなければ先を超されると中国水力発電工程学会の張基尭理事長は危機感を募らせる。

環境への配慮なくして「持続可能な発展」はない

 藏木発電所の建設を巡る水資源の問題は、単に水資源やエネルギーの問題、そしてインドや下流諸国との戦略関係に止まらない課題を突き付ける。発展の在り方自身が問われているともいえる。本来、国の発展に重要な自然環境への配慮が中国では軽視されている。PM2.5のような大気汚染、上下水道施設の遅れ、おざなりのゴミ分別といった初歩的問題さえも急成長の前に配慮されないのは自分で自分の首を絞めるようなものだ。後戻りのできない生態系の壊滅的破壊をもたらす大型インフラ建設は禍根を残さぬよう自然への配慮をした上で三峡ダムなどの既存の施設の評価をきちんと行い、環境への負荷を考慮した路線に転換すべきだろう。

◆修正履歴
年間発電量の単位を「キロワット」と表記していましたが、正しくは「kWh」でしたので、訂正致します。該当箇所は修正済みです。(2014/01/08 9:30 編集部)

  
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