取引している金融機関が、中嶋氏のような良き相談相手になっても良さそうなものですが、健全性や収益性を強く求められている金融機関は、危ない企業に対してはいつ回収に踏み込むかタイミングを探っている場合が多く、そんな金融機関の前で経営者は裸になれないというのが、本音でしょう。
企業を倒産に追い込めば追い込むほど、金融機関は収益の源泉を失い、失業保険や生活保護といった社会保障コストが膨らんでいきます。弱い中小企業は淘汰すべきとの議論も根強いですが、100年に一度の経済危機においてもそれは正しいでしょうか。
「中小企業の経営者が諦めかけている。彼らが持つ貴重な経営資源を守らなければ。時間的猶予はない」との中嶋氏の指摘に耳を傾ける必要があるでしょう。
及び腰の民間金融機関
もちろん、これまで打たれてきた経済対策は一定の評価を上げています。しかし問題は、それでも足りない事態になってきていることです。
中嶋氏の言うように、リスケジュールや、税金や社会保険料の滞納に一度でも陥ってしまうと、信用保証協会による緊急保証はほとんど受けられなくなってしまいます。経済対策の網から漏れる中小企業は少なくありません。
さらに深刻な問題は、銀行など民間金融機関の融資姿勢です。これは、どちらかといえば規模の大きな、優良中堅企業を訪ねるとよくわかります。
「内部留保を十分に積み立ててきたので、現状の売上でも2年はもつ。資金需要は全くないのに、メガバンクや地方銀行がよく営業に来る」と苦笑するのは、東京都のある優良中堅企業の社長です。埼玉県の中堅企業の元社長も「リストラで凌ぎ、とても借りられないのに、財務状況が悪くないからか、銀行マンの姿をよく見る」と言います。
数少ない地方の優良企業を狙って、地域外の金融機関が金利ダンピングで融資攻勢をしかける。自らの目利きは放棄し、メガバンクの募集するシンジケートローンに乗っかる。事業支援しながら長く付き合っていく面倒をこなす能力はないから、不調に陥った企業の相手はしない。メガバンクや多くの地銀の行動はこの体たらくです。
地域金融をもっとも担うはずの信用金庫、信用組合の中にさえ、「緊急保証制度を利用しないと融資はしない」と思わざるを得ない行動を取っているところがある。リレーションシップバンキング(地域密着型金融)を推進してきた多胡秀人・アビームコンサルティング顧問は、こう言って怒りを隠しません。
緊急保証の場合、保証がつけば、倒産しても保証協会が代位弁済してくれますから、保証つき融資は、金融機関にとってノーリスクです。ノーリスクの融資しかやらないというのは、金融機関としての目利き力を放棄しているわけですが、金融機関自身の経営環境も厳しくなっているから致し方なし、ということなのでしょう。
なぜ銀行は役に立たないのか
こうなることを見越していた金融庁は、貸し渋り対策として、昨年11月に金融検査マニュアルを変更し、中小企業向け債権の査定条件を緩和していました。融資先企業が提出する経営再建計画の実現性の判定を緩和することで、債務者区分を引き下げなくてすむ範囲を拡大し、金融機関がより柔軟にリスケジュールに応じられるようにしました。しかし現場では、民間金融機関の態度が軟化したとはとても思えない事例が目につきます。