ポリシーを実行に移すにあたって豊重さんがまずやったのが、人を動かすこと。約300人の住民すべてが、最初から豊重さんのポリシーに賛同したわけではない。行政が与えてくれるサービスにどっぷり漬かっていたために、突然自発的に動けといわれても「面倒臭い」という人が出るのは当然のことだ。実際、「地域のご意見番」という人が豊重さんの反対者になった。周囲への影響力があるために、その人に気をつかって、住民が活動に参加しないという状況になっていた。それでも、豊重さんは諦めなかった。
人を動かすコツ。それは豊重さんに言わせれば「感動させること」。豊重さんは、集落の広報用に使われていた有線放送を活用した。父の日、母の日、敬老の日に子どもたちから親への手紙を読み上げるというアイデア。日ごろ言えない親への感謝、故郷を後にした親への気遣い……。スピーカーから聞こえる朗読は集落を感動の涙に包んだ。
豊重さんは、反対者のリーダーの娘からの手紙を無断で放送した。「許可を得ずに放送して申し訳ありません」と、豊重さんがリーダーの自宅を訪ねると、「ありがとう」と涙を流して抱きつかれたという。それ以降、豊重さんの有力な支持者となって今でも続いている。これは、ほんの一例だが、人を動かす取り組みを2年間続けた。
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