東京都美術館で開催されている「トリノ・エジプト展」。その監修者である早稲田大学教授・近藤二郎氏に会場内を案内していただいた。ルクソールで30年以上発掘調査をしてきたという近藤教授によると、
「トリノ・エジプト博物館のコレクションは質・量ともに世界屈指の水準です。また、特徴の1つとして、ルクソールにほど近い場所、ディール・アル=マディーナから出土したものが多いことが挙げられます」
ディール・アル=マディーナとは、新王国時代の王や王族の墓の造営に携わっていた職人たちが住んでいた所。ここは「王家の谷」や「王妃の谷」に近く、貴重な出土品が数多く発見されている。その1つが、会場に入ってすぐに現れる「アメンヘテプ1世座像」だ。
「アメンヘテプ王は、死後に神格化され、ディール・アル=マディーナの住人から預言力のある神として信仰されました」
2000年以上前の彫像なのに、彩色がきれいに残っているのが驚きだ。
大型彫像が多数展示されている彫像ギャラリーでは、「イビの石製人型棺の蓋」に目が止まった。近藤教授によると、これは紀元前7世紀頃(第26王朝)の高官イビの石棺で、石の材質が硬いことからイビという人物の位が高いことが推察できるという。
「硬い石は加工技術が難しいのですが、この石棺の文字やレリーフはとても美しい。つまり、イビは最高級の腕をもつ彫刻家を雇う力をもっていたということです」
続いて、今回の展覧会の最大の目玉「アメン神とツタンカーメン王の像」について説明を受ける。
「向かって左側に座っているのがアメン神。右側に立っている小さな像がツタンカーメン。神と王の大きさの違いから、アメン神に対する王の信仰の深さがわかります。これだけ完全な形で残っているツタンカーメン王の彫像は珍しいですね」
展示物そのものもすばらしいが、シックでモダンな会場の雰囲気も素敵だ。特に、彫像ギャラリーは鏡と照明が効果的に使われ、とても神秘的な雰囲気。実は、現地トリノの彫像ギャラリーは、アカデミー賞受賞美術監督ダンテ・フェレッティによってドラマチックに演出されていることで有名。この彫像ギャラリーにも現地の演出法が取り入れられているので、ぜひ体感してほしい。