2024年11月22日(金)

イノベーションの風を読む

2015年6月18日

 三潴末雄氏の『アートにとって価値とは何か』(幻冬舎)。この本を手に取ったのは、上に書いたような近代アートに対する苦手意識を克服しようと思ったからではない。著者の三潴(ミヅマ)氏と繋がりのある知人から紹介され、たまには仕事と関係のない本を読んでみようと思っただけだった。しかし、結果的に僕の近代アート、現代アートに対するコンプレックスを取り払ってくれたように感じている。

『アートにとって価値とは何か』 三潴末雄(幻冬舎)

 この本の内容をサマリーすることは難しい。日本の現代アートの本質的な価値や、その世界における位置づけが三潴氏の独自の視点で描かれている。しかし、それは単なる現状分析や問題提起などではなく、あるべき姿や進むべき方向性を非常にリアリティのある言葉で示している。独自の視点といったが、実のところ、日本固有の(ヴァナキュラーな)ものであるがゆえの価値によるのではなく、日本人が持っている「海外から受容した文化をシャッフルして国内の土壌に合わせて独自に変容させ、日本的なものにつくり変えてしまうクリエイティビティ」(「」は引用)によって創造された、グローバルに通用しグローバルなものとして価値評価されるアートとして、日本の現代アートを欧米のマーケットに展開してゆこうという取り組み自体が三潴氏の独自のものなのだろう。

 団塊の世代の少し前に生まれた三潴氏の半生とギャラリストとしての格闘は、五木寛之の「青春の門」を読んだときのように自分の中の何かをかき立てざわつかせる。

ソニーやホンダの優秀な人たちは
なぜ新しいものを生み出せないのか?

 かつて、ソニーやホンダのように多くの革新的な製品を生み出してきた日本の製造業から、イノベーションが生まれなくなってしまったと言われはじめて久しい。そこにはいまでも多くの優秀なエンジニアやデザイナーそしてマーケッターがいて、彼らは技術に精通し、顧客の抱えている問題を分析して把握し、市場のニーズやトレンドを十分に理解している。

 しかし、きっと新しいものを生み出すための何かが欠けている。その何かはiPodやiPhoneを生み出したスティーブ・ジョブズが持っていたアーティストのような、新しいものを創造しようとする使命感とモチベーションかもしれない。「たまには仕事と関係のない本を読んでみよう」という目論みに反して、二度三度読み返すうちに、そんなことを考えてしまった。

  
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