労働者派遣法改正案が11日の衆院本会議で可決、成立した。一方、年収1075万円以上の高度な専門職につく人を対象にした「脱時間給」制度(ホワイトカラー・エクゼンプション、以下WE)の新設を盛り込んだ労働基準法改正案は廃案が濃厚だ。「時間」ではなく「成果」を求められるホワイトカラーにとって、「脱時間給」の働き方は必要だが、いつも論点になるのは労働時間の長期化による健康被害の問題だ。しかし、山本勲・慶応大学教授によれば「大卒・年収700万円以上の労働者では、労働時間は長くならない」との実証実験の結果が出ている。
慶應義塾大学商学部教授
1970年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。日本銀行勤務を経て、ブラウン大学経済学部大学院博士課程修了。2014年より現職。
編集部(以下――):「脱時間給」制度を導入した場合、労働時間は長くなるのか
山本氏:試算によると、学歴によって異なった。確かに大卒以外の労働者や卸小売・飲食・宿泊業などの労働者は労働時間が長くなった。一方で、大卒の労働者が残業代のつかない管理職に昇進した場合、労働時間が週平均で0.46時間短くなった。
次に年収別に見ていくと、「年収700万円以上の労働者」の労働時間は長くならなかった。これは卸小売なども含めたすべての業種に当てはまる結果で、学歴問わず「700万円以上の年収のある人は労働時間が長くならない」ということだ。この層の人々はいわゆる「名ばかり管理職」ではなく、実質的にも管理職の役割を担っており、労働時間を自分の裁量でコントロールできる層なのだと考えられる。
――実際に導入する時の留意点は
山本氏:インターバル規制や有休を取らせることだ。しかし制度だけでなく、不要な残業を削減するための企業と個々人の努力が不可欠だ。仮に週3時間ほど無駄な時間があるとしたら年間では、1日10時間の労働としても10日を優に超える休日が取れる計算になる。労働時間を削ったとしても生産性が変わらないのであれば、企業としても痛手はない。企業が強制的に休みを与え、その代わりに「平日は効率的に仕事をしよう」としていくのが理想だ。「時間=給料」という職場の風土を、「成果=給料」に変えなければならない。WEはその手段に過ぎず、あくまでも目的は「生産性向上」だ。優先順位をつけるなど、本当に必要な仕事を絞り込むことになるため、現場では多少の痛みは伴うだろうが、企業・労働者双方にとってのマインドセットのきっかけになる。
――様々な報道があるが
山本氏:「脱時間給」制度導入には、成果さえ出せば「長時間労働をしなくていい」という労働者にとってのメリットがあるにも関わらず、「残業代ゼロ」「健康被害増大」といった悪い面ばかりがクローズアップされてきた。しかし、閣議決定では、労働者1人当たりの給与の平均額の3倍相当程度を上回る水準である年収1075万円以上の労働者、と対象の要件を厳しくしている。自律的に仕事を組み立てることができる、いわば「交渉力のある」労働者に限定しているので、より「脱時間給」制度に関して報道されてきたようなデメリットは出にくいと思われる。