五十嵐 僕もそう評価しています。
毛利 1968年を運動のピークとして、ニューレフトが教条的マルクス主義からの脱却を図るなかで、カルチュラル・スタディーズが70年代に登場する。僕もその流れのなかにいたわけだけれども、この間68年から進んだのか後退したのかはより厳密な議論をするべきでしょう。日本の場合は、そもそも「新左翼」と訳された社会運動がヨーロッパを中心に世界的な規模で進行したニューレフトの運動をしっかりと吸収できなかったことが問題だったと思います。今は「68年以降」の終焉が起きているのだと見ているのではないでしょうか。
実際、決まり文句のように「国会前に詰めかけた若者たち」とはいうけれども……
五十嵐 いや、むしろ若者は少ないですよね。
毛利 思ったよりもはるかに少ない。もちろん最前列にいる若者たちが象徴的な意味を持っているのは間違いないんだけど。
五十嵐 先頭でメガホンを握っているのが若者たち、という構図ですね。
毛利 実際に行くと、僕ですら若い方に入ってしまうような年齢構成でした。60年安保やその後の学生運動を経験しているはずの、組合や生協、各市民団体の人たちが、旗を持って集まっている。動員されたわけではないのでしょうが。
五十嵐 そのあたりはゆるく組織されている印象でしたね。
毛利 それなりに組織化されている草の根運動の方は高齢化が進んでいて、そこには若い人が入ってこない。でもそこのほうが運動としては依然として多数派で、彼らが最前列の若者たちについて行っている、そういう構図がはっきりとありました。
リア充たちの運動?
毛利 SEALDsが「本当に止める」と言い始めた段階では、せいぜい数百人規模の運動だったと思うんです。緊急性もあって、わずか2、3カ月でここまで持ってきたのはすごいことですよね。参加者12万人とか、実は3万人だとか、人数について議論はあったけど。
五十嵐 周辺駅の乗降客数から10万人前後と推定していた人もいましたよね。その数字は実感とは合っている気がします。
毛利 いずれにしても港千尋さんが『革命のつくり方』(インスクリプト)で言っているように、群衆は究極的に「数えられない」ということが重要なのであって、数字の議論はあまり意味がないかもしれません。国会前はずっと人が流動的に出たり入ったりしているし。安保法案が参議院でほとんどだまし討ちみたいに可決されたけど、まだこれからどうなるのかわからない。運動内部の主導権争いも出てくるかも知れないけど、でもこの中から政治家も出てきてほしい。
五十嵐 出てくるんじゃないですかね。ただ、どこの政党から出るかというイメージが、僕にはないんです。民主党じゃないような気がするし、かといって社民・共産でもなさそうですし。志位さんの「国民連合政府」構想の展開次第では、変わってくるかもしれませんが。
毛利 我々の世代がやらなきゃいけないのは、そういう組織の受け皿作りなんでしょうね。
五十嵐 同じ若者の運動でも、労働問題や貧困問題に取り組んできた層とも少し違うように感じています。
毛利 違いますね。
五十嵐 労働問題では、いま改正派遣法の施行日(9月30日)目前で緊急性があるのですが、そこであまり盛り上がっているようには見えないですね。SEALDsは目的のひとつに「生活保障」を掲げてはいますが、僕も関わってきたPOSSEなど、ブラック企業・ブラックバイト問題に反応してきた人たちとはちょっと違う空気を感じます。
毛利 反応は鈍いでしょうね。そういう意味ではもともと「イケてる」層で、就職活動してもうまくいきそうなタイプの若者たちですね。SEALDsの人たちは電通や博報堂に入っても結構うまく仕事ができるんじゃないかとすら思います。いやむしろ広告会社やメディアは、ああいう人材を雇うべきだ。68年世代は実際にメディア産業で活躍しましたしね。けれども、そうなると派遣法には関心を持ちにくい。
五十嵐 僕の勤め先の筑波大学には、SEALDsの中心の一人になっている諏訪原さんという院生がいますが、僕の周りの学生はどうかと言えば、国会までけっこう遠いせいもあってさほど参加している様子はないんです。関心も共感もあるけど、実際あのコールに加わるのはおしゃれすぎて気後れする、みたいなのもあるかもしれない。思い込みだけなのかもしれないけど、「九州に戻って地方公務員になります」というタイプの学生には入っていきにくい(笑)。
毛利 芸大生はSEALDsには共感しているけど、それほど参加はしていなさそうです。そこは文化の違いが大きくて、自分たちが運動を関わるなら別のスタイルを取りたいと考えているんじゃないでしょうか。逆にブラックバイトや派遣の問題は、自ら不安定な立場を選んでいるせいか、いわば自己責任として引き受けているところがありますね。でも、興味深いのは8月の終わりから大学の中でも安保法制をめぐる議論が急速に活発になってきたし、国会前にも行く学生が増えた。