つい数年前まで英国のキャメロン首相は、中国に厳しい態度を取っていた。
2012年には、チベット仏教の最高指導者であるダライ・ラマ14世と面会し、英中の関係はこじれた。今の英国の態度は、そのときのマイナスを取り戻そうと他国以上に必死になっているように見える。
その結果が、今回の習近平国家主席訪英時の王室まで巻き込んだ一連の歓待であり、先進国でもっとも早かった中国が主導するAIIB(アジアインフラ投資銀行)への参加表明であり、人民元建ての英国債発行である。加えて今回の訪英時に、英国内で人民元建ての中国国債を発行することまで決まった。こちらも先進国で初めての取り組みである。
また、英国は人民元のSDR(IMFが創設した国際準備資産)構成通貨入りも支持、金融面以外においても中国製原子炉の導入を決定するなど、何から何まで支持・歓迎といった状況で、彼らが言うところの「英中黄金時代の幕開け」を感じさせる。
譲れない「世界ナンバーワン」の座
英国にとってロンドンの金融市場、いわゆる「シティ」は世界ナンバーワンの金融センターだという自負があり、事実その通りである。だからこそ、市場を支える投資家、アナリスト、弁護士といった人材やインフラがロンドンに集積している。シティがナンバーワン金融センターの座を保ち続けるには、何としても人民元関連のビジネスを取り込む必要があった。
また、英国の足元の経済状況は悪くないが、政権を握る保守党は緊縮財政を強引なまでに進めており、中国マネーは「喉から手が出るほど欲しい」状況にある。
今や世界中が中国マネーを欲している。アジアやアフリカでは既に多くの国が中国マネー取り込みに躍起になっているが、英国の一連の中国に対する対応は、その流れがいよいよ先進国にまで本格的に押し寄せた、ということを感じさせる。やや乱暴な言い方をすれば、中国マネーに本格的になびいていないのは、日米だけともいえる。
10月末には、訪中したドイツのメルケル首相が李克強首相との間で、ドイツに人民元建て金融商品を扱う国際取引所を開設することで正式合意したが、英国のみならず、ドイツもフランスもルクセンブルクも、中国マネー取り込みに躍起になっている。