住谷氏は、子宮頸がんワクチン接種後の症状に苦しむ多くの少女たちを実際に診てきた立場から、心の問題を軽視した治療を行うことが、症状を固定化させ、治療を長引かせる可能性について語った。
ハンリー氏は、母国スコットランドでも子宮頸がんワクチンの副反応がたくさん報告されているが「政府は全然気にしていません」と語り、どんなワクチンでも導入直後の数年は副反応報告が増え、その後、減っていくという「ウェーバー効果」について触れた。
川名氏は、横田氏が投げかけた「(後で講演する)川名先生は子宮頸がん治療ワクチンを開発している。子宮頸がんワクチンではなくこの素晴らしいワクチンを用いるべき」というパスを、「治験の段階に過ぎません」としてスルー。検診では感染は防げないことや、初期で見つけて円錐手術でがんを取り除くことができたとしても多くの問題が残ることを明らかにし、予防ワクチンを用いることの必要性を訴えた。
プレゼンの後に設けられた討議の時間で、不機嫌な表情を浮かべていた横田氏は、「ちょっと不公平かなと思った。でも、僕は証明したつもりで帰る」とコメントしてフロアの笑いを誘ったが、その後、ハンリー氏が「非科学的な情報が流れたときに専門家の小児科医の先生方がきちんと否定しないと……」と言いかけたところで、「おい、ちょっと失礼なんじゃないか!」と声を荒らげてさえぎり、会場が騒然とする場面もあった。
小児科医たちの総意
座長を務めた齋藤昭彦氏 (新潟大学大学院医歯学総合研究科小児科学教室)は、シンポジウムの開始時点と終了間際の2回、子宮頸がんワクチンの接種再開に対して支持するかしないか会場に挙手を求めた。フロアからは「支持する」の方に無数の手が上がった。フロアにいた筆者は手に取り囲まれて全体を見ることはできなかったが、壇上にいた座長は、開始時点に比べ、「わからない」に挙手する人が減り、9割くらいがワクチン接種再開を支持しているようだとまとめた。
もちろん、これは多数決で決めることではない。
しかしこれは、一向に仮説の域を出ないHANSという概念と、その蔓延に対する、アカデミアの確固たる意志を感じ取ることができた瞬間だった。
横田氏は、昨年、一昨年の線維筋痛症学会の際にも、今回とまったくと言っていいほど同じ話をしている。この時は、フロアの参加者の中心は医師ではなく、メディア関係者や被害者連絡会関係の人だった。フロアは固唾を呑んで見守る雰囲気に包まれ、すすり泣く人までいた。(参考記事:「子宮頸がんワクチン薬害説にサイエンスはあるか」)
しかし、小児科学会で挙がった無数の手は、心も体も成長過程にある子供たちの複雑な病気と日々向き合い、研究にあたっている同僚の小児科医たちは、全く別の受け取り方をすることを示していた。