2024年12月22日(日)

Wedge REPORT

2009年12月20日

 変化はまだ中国に訪れていないだけなのかもしれない。が少なくとも目下のところ、共産党の掌握する実権に揺るぎはない。反対派の取り込み、監視、そして抑圧のテクニックを完璧なものとするため現体制が費やした手間ヒマたるや膨大なものがある。加えて中国の新興中間層を見ていると、今は手に入れた富のご利益にることの方が面白く、政治改革を求めるのは二の次のようである。労働の自由、旅行の自由、消費をし、好きなように着飾る自由……。これらには、確かに以前に比べ目覚ましいものがあるけれども、政治的反対派を結成することは未だに禁じられているし、ある一線を越えて中央政府の批判をすることも、依然許されていないのではあるが。

続くミサイルの増強
 米国防衛力に脅威

 一方1990年代入りしてからの中国は、新たに手に入れた富を軍事力増強に用いてきた。アジアの内外において影響力を広げ、外交攻勢に出るのに使ってきた。年率10%を超す成長率を弾き出す中、それゆえに耐えきれないほどの負担を国民経済に与えることなく、率にしてこれを上回る軍事支出の伸びを続けている。その使途はというと、多くは軍事的ハードウエアの調達であって、これで中国は空と宇宙、外洋に向け力を投射する能力を飛躍的に伸ばすことができる。

 なかんずく、中国人民解放軍は精密誘導・通常弾頭ミサイルに多大の投資を続けた。じきに、これらミサイルは北東アジア全域の航空基地、港その他の固定目標を攻撃し、西太平洋を航行中の艦船を威嚇することが可能となる。この能力が整ったあかつき、域内同盟国の防衛を助けようとする米国の努力は、大いに阻害されてしまうのではないか─。これは、米国で一部専門家が案じ始めている点だ。

 隣接諸国に睨みをきかせる軍備を整えつつあるのみではない。他方で北京は同じ国々に貿易、援助、投資ならびに「微笑み外交」を仕掛けている。大半の東アジア諸国にとって、中国は最大の貿易相手に既になったか、もしまだならじきになる。そして中国が関心を示す域内自由貿易体制の確立とか、種々多国間の制度づくりとかは、地域の統合を進めるとともに、米国のもつ指導力を衰えさせ、代わって自らのそれを強化しようとするものだ。

 中国の目指すところは一体何か。政体の閉鎖性、権威主義的性格のゆえに、見当をつけるのは容易でない。が、はっきりしている点はある。まずその最も重視する課題が、外交・内政の両面において権力を保全するところにあるということだ。国内反抗勢力を潰しつつ、外発的事態の統制に努め、彼らが言う外来の脅威を極小化しようとするのはそのためである。台湾情勢を大陸の統制下に置く必要が、ここから生じる。領土と資源をめぐる係争のすべてを自国に都合がよいよう解決していく必要が生まれる。そして、軒を接する隣国で力強い民主主義が確立するのを防ぐという政策につながる。

 いずれにせよ、一方にこの(体制保全にかかわる)不安心理、他方にもともとあって近来その勢いを増しつつある歴史的自負心とが重なって、中国はいまや東アジアの全域における比類なき勢力として、自らを打ちたてようとしている。ゆえに米国の役割と存在はアジアにおいて極小化されねばならず、可能とあらば、解消されねばならないということになるわけだ。

 新参者の侵入者─それが北京の見る米国像である。米国が結局この地域から勢力を引き上げ、同盟を放棄すること、そのことによって、中国がその本来あるべき地位─地域の最大最強国という─に再度つけるようになること。中国の戦略当局者は、紛れもなくこれを期待している。この際他者の邪魔立ては排さなければならない。だから北京は中国にとって潜在的に競争相手となり得る国々が各々力をつけていく、ないし相互に連携しあって中国の対抗勢力を形作っていくようなことは、努めて防ごうとするのである。


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