2024年12月22日(日)

Wedge REPORT

2009年12月20日

 こうした中国の戦略を要約するなら、こんなふうになるだろうか。「米国を追い出し、日本を潰しておき、そして日本、インド、韓国、豪州、インドネシア、ロシアをそれぞれ別々にしておくことだ」

日本の新政権に懸念
 同盟再活性化が急務

 米国は、このような中国に対しやはり両睨みの政策を打ってきた。ひとつは包摂(エンゲージメント)政策である。同盟国にも同様にするよう仕向けてきたこの政策とは、貿易投資など経済面、高位当局者相互の対話など外交面、また可能な分野では相互に関心ある問題での協力などを通じ、中国に積極関与しようとするものだ。その意図するところとは中国に強い既得権を持たせることで、現行国際システムを維持する側に回らせること、そして望むべくは、先行き中国の政治改革へと誘導していくところにある。

日米同盟の再活性化を誓った両国首脳だが… (写真提供:AP Image)

 これはこれとして大いに追求しつつ、90年代半ばからこのかた、他方で米国はアジアにおける有利な地政学上のバランスを保全することに一層の注力をしている。米国自身の軍事力を向上・改善することとともに、友邦・同盟諸国に対し同様に望みつつ、米国とのより緊密な共同行動をとることがそこには含まれていた。米国がこの間、アジアの域内とその周辺で戦力再配分を目指してきたのはもっぱらそのためである。日本に対して軍事的能力の拡大を促しつつ、計画、訓練、兵器開発のそれぞれにおいてより密接な協力を求めてきたことも、そのためだった。

 両国が各々国防努力を進め、互いに戦略的協力を密にしていくことこそは、紛れもなく双方の利益に最もかなっている。けれどもそのことは、必ずそれが起こることを意味しない。障害は日米双方に数限りなく存在する。まず米国のオバマ政権は、前政権と同様、中東と南西アジアの紛争にかかりきりだ。また大統領のアジア歴訪から判断するに、オバマ政権の対中姿勢は極めて容認的になろうとする傾きをもつ。人権に関して北京を難詰することはないし、北朝鮮、イランにかけるべき圧力をかけていないとして批判することもない。それが、経済問題と、恐らく気候変動分野での深い協力を可能にすると期待してのことだ。

 アジアにおける米国の戦略的地位を目につくほど強めることで、北京の警戒を招きたくはない─。そう考えるのが米国の新政権である。もっとも、金融危機とそこからの脱出のため打ち出した対策のせいで米国はいま予算に大いなる制約を抱えているから、やりたいことはいずれにせよそうできない。

 日本はといえばやはり経済に問題を抱え、新しい政治指導者も、同様に中国と良い関係を結ぶことに熱心である。北京の刺激などは、避けようとする。加えて鳩山政権は、米国とより対等なパートナーシップを結びたいとの期待を表しているけれど、これが本当なら米国の軍事専門家で喜ばない者はあまりいるまい。それ以上に悩ましいのは、日本政府にどうも日米間の話を前へ進ませるよりは、後ろへ後退させたがるきらいがあるところだ。沖縄駐留米軍の移転をめぐる古い争点を再び交渉しようとしてみる割に、例えば中国の潜水艦勢力の拡大、弾道ミサイルの増強というチャレンジにどう対処すべきかといった新しい問題は俎上に上らない。一体、日本政府は米国との緊密な戦略的パートナーシップのことを、どのくらい価値あるものとみなしているのか。そこに関する発言が曖昧であることは、何より懸念せざるを得ない点だ。

 オバマ大統領は最近東京で、鳩山総理とともに米日同盟を「再活性化」すると公式に誓約した。両指導者にこの言葉を守らせるべく、日米同盟こそはかけがえないものと認めるほどの人々はみな、日米それぞれの持ち場で今後しばらくよほど精を出さなければならない。

◆「WEDGE」2010年1月号

 

 
 

 

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