中国の「爆食」によって世界の食料事情は激変している。その状況を豊富な事例で検証しつつ、背後にうごめくグローバルな「マネー資本主義」の実像に迫ったのが本書だ。
「牛肉資本主義 牛丼が食べられなくなる日」
(井上恭介 プレジデント社)
(井上恭介 プレジデント社)
中国ではこれまで、肉といえば豚か鶏だった。ところが近年、内陸部の各地で空前の牛肉ブームが起きている。2013年の牛肉輸入量は日本を追い抜き、14年までの5年間で実に5倍にも増大したのだ。
その余波は、大豆にも及んでいる。豆腐や味噌の原料である大豆は日本の食事に不可欠な食材だが、世界では家畜の飼料(油を搾った残り分の大豆粕)だ。牛肉を食べるようになった中国は飼料用の大豆を、アメリカのみならず新たに開発された南米の農地から直接・大量に買い付けるようになった。
結果として、かつて無敵だった日本の商社が仕入れ段階で中国に買い負ける例が多くなった。また世界の食料を牛耳っていたアメリカの穀物メジャーの影響力が低下し始めた。NHKスペシャル『世界〝牛肉〟争奪戦』のプロデューサーで、本書の著者である井上さんが最も衝撃を受けたのは、ブラジルの〝大豆王〟を取材した時だ。
「内陸部のセラードと呼ぶ大草原、そこに東京ドーム9800個分の大豆畑が開発され、今も拡大中。大半は中国向けですが誰に売るかは、時々刻々変わるシカゴの先物市場の価格を見ながら決めます。国家の規制も環境規制もない、裸の資本主義の現場です」