今の私の関わり方や仕事の仕方は、佐藤がサムライを設立し、アートディレクターとして関わる領域がどんどん拡大していく中で、必要に迫られて確立していったものです。これには広告代理店の営業としての経験はもちろん、外資系化粧品会社で学んだメディアとの関係の作り方、そしてメイクアップアーティストや調香師などの、クリエイターのマネジメント経験が大いに役立ちました。
客観的な目をどれだけ持てるかがカギ
この「全員がハッピー」を目指す上で、私がいつも心に留めているルールは2つあります。
1つめは、まずは全体を引いてみる俯瞰的、客観的な立場を忘れないことです。
私は実際に何かを作るクリエイターではありませんので、自分の作品、そしてクオリティに妥協できないクリエイターの気持ちと、納期、予算、全体のバランスなどの諸事情があるクライアントの立場の両方を冷静に見ることができます。双方がお互い自分の立場、主張をなかなか譲れないというのはよくあります。ここで両者の言い分が折り合う、融和点を見つけ出すことが大きなカギになります。このカギが、クリエイターの最高のパフォーマンスを引き出し、引いてはプロジェクト全体を成功に導く、すなわち「全員がハッピー」という状況へのリーチになります。
またその交渉には当事者同士が頭をつきあわせるよりも、私のような第三者が介在した方がお互い忌憚のないところで話し合え、話がまとまりやすくなる気がします。途中で起こるかもしれない、双方の誤認識を最小限に食いとどめ、トラブルの気配を察知して事前に回避することが、いろいろな制約のある中でプロジェクトの生産力を上げていくためのコツではないかと思います。
またこのときに、サムライや佐藤側の言い分に加担しすぎないよう注意するのは言うまでもありません。クライアントの希望要望を抑え込んでこちらの言い分を強調し、相手を説得して進めても、どこかで破綻がくるだけと捉えて、十全の危機管理を意識しています。
自分の役割は何かを考えれば、自ずと見えてくる
とはいえ、サムライの仕事は、クライアントのビジョンを形にするデザインやクリエイティブワークです。クライアントが当初想定していた範囲と期待を超えるものを提案して、たくさんの方に感動していただくことができるかは重要なポイントになります。クライアントの希望をすべてお聞きした上で本当に求めているものは何か、最優先する事項は何かという本質を掴んで、出来ること、出来ないこと、また最初は求められていなかったけれどもやったほうがいいことなど、プロジェクトのスコープとスキームを丁寧に設定していくことが大切で、ここで問われるのがバランス力ではないでしょうか。
スピードとエゴの克服がクオリティを保つコツ
さらに関係者たちのリレーションがスムースに循環しているかどうかなどを見極めることも欠かせません。
そのなかでも「速度」の問題は特に重視しています。
ビジネスの第一線で活躍なさっている方々は、分単位で疾走していらっしゃいます。そういった方々とご一緒させていただく身としては、どのように細かな内容であっても迅速なレスポンスを心がけています。どんなにクオリティの高いものが作れたとしても、日々のレスポンスが遅い、急いで確認したいことがあるのにつかまらない、そんな一見小さなストレスの積み重ねは大きな失点になりかねません。そういったことを含めてすべてがサムライとしてのクオリティなのです。進行しているプロジェクトについては議事録や連絡事項など、すべて私にもCC(カーボン・コピー)で情報を流してもらっています。それらのすべてに毎日目を通し、スタッフのどこかで流れの停滞が生じていないか、コミュニケーションの相手を待たせてはいないか、などもくまなく留意しています。
このなかで「いま補完すべき要素」があることにどれだけ「素早く気づけるか」どうかも勝負どころだと思っています。プロジェクトのトラブルは小さなケアレスミスの積み重ねが積もり積もって、ある日突然、大きなことを引き寄せてしまうというのはよくあることではないでしょうか。早期にケアレスミスやクライアント満足度を下げるであろうと思われる“芽”に気づいて、それを摘み取るために、必要に応じてスタッフに声をかけたり、自分でフォローをしたり、あるいは佐藤を通して電話をするなど、適切な対処策を判断できるように、日々心がけています。