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2016年9月25日

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中西 享 (なかにし・とおる)

経済ジャーナリスト

1948年岡山県生まれ。72年共同通信社に入社。88年から91年までニューヨーク特派員、経済分野を取材し、編集委員を経て2010年に退社。現在は経済ジャーナリスト。著書は「ジャパンマネーの奔流―ニューヨーク・東京・ロンドンの24時間」(1987年、ダイヤモンド社)、「日本買い 外資は何を狙っているか」(2005年、PHP研究所)など。

ニュースと相関性あれば売買指示

 野村証券の高田ストラテジストは「AIを使ったトレーディングモデルの場合、必ずしも1つのキーワードだけで全てを判断するわけではない。TwitterなどのSNSや主要ニュースサイトなどで、ある一定期間に高い頻度で現れた単語や表現をリアルタイムで抽出し、そこから過去の事例に基づき、それらの言語が使用された頻度と(その当時の)株や為替の値動きの相関性を抽出する。その関係から統計的なテストを経て、『偶然性』が排除できるとAIが認識すれば、売買シグナルを出すように設定する傾向があり、AIはこの辺りを一瞬で処理できる。人間のトレーダーが売買判断を下す上で、従来は『経験』と呼ばれていたものを、AIがデータと統計テストに置き換えて判断している格好だ。

 人間でも間違いを犯すため、AIも全く誤答がないとは言い切れない。ただ、人間とは異なり、通常は統計的な検定に基づく一定の基準を設ける。このため、でたらめな売買やリスクの高い売買(確度の高くない取引)は、AIが自らの判断で行わないようになっている。ニュースや情報は刻々と変化するので、追加的な情報(より出現頻度の高い単語などを優先する場合がある)の供給によって、最初の段階では上手くいくとAIが認識したトレードが、上手くいかなくなる場合なども起こり得る。

 その際も、新しいニュースやデータを解析して、もう一度再計算を行う。再計算の結果が当初の結果とズレたりするのであれば(ここでも厳密な統計的検定を行う)、そこで反対売買を行いトレードを終了するように設定する傾向がある」と説明する。またトレードを行う際には「ストップ・ロスなどの基準を必ず設ける。XX分の間にXX%ロスしたら自動でカット、などいくつものバリエーションが考えられるが、この辺りも事前に基準を設定し、それが果たして効率的かどうかをAIが自動で学習しながら設定を変更したりする」と指摘、AIは多様なトレーディングに対応できるという。 

ニュースの中身を吟味

 黒田日銀総裁の発言、障害者施設の殺傷事件を受けて円が急騰したのは、市場が勝手に判断した早とちりによるものだった。「ヘリコプターマネー」は、中央銀行が政府から直接に国債を買うことで、この手法は法律で禁止されており、黒田総裁としては否定するしかなかった。この後に総裁は「追加緩和の可能性」に言及しているが、こちらはニュースにはなっていない。殺傷事件の方はその後、テロではなかったことが判明、27日には安倍晋三首相が20兆円を上回る大規模な経済対策を打ち出すのではないかという報道もあって、今度は円が売られて106円台まで円安となる荒々しい相場展開となった。

 一連の今回の事例は、相場を動かす材料をAIだけに依存していては、相場が一方向に過剰反応してしまうリスクがあることを示している。為替市場で使われるのはヘッドラインに出てくるキーワード単語とビッグデータを関連付けただけの単純なものだ。日々起きる事件は、必ずしも過去のパターン通りに起きるものではなく、マーケットは過去のパターンを必ずしも踏襲しなくなっている。それだけに、AIだけに頼って売買指令を出すのではなく、どこかで人間が一瞬立ち止まってニュースの中身を吟味する必要がある。

 元日本長期信用銀行出身の小池正一郎グローバルマーケット・アナリストは「ニュースで伝えられることに単純に追随して売買することには慎重になるべきだ。最近はニュースに対する認識ギャップによる判断ミスも多くなっている。AIだけに頼るのは危険だということが市場関係者にも分かってきて、ニュースの中身を分析してから判断しようという慎重な姿勢もみられるが、相模原の事件後の反応のように、市場がニュースに過剰反応して思わぬ方向に急変動する恐れがある」と注意喚起を求めている。

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