2024年12月9日(月)

Wedge REPORT

2016年9月25日

 超低金利で神経質な相場が続いている為替市場で、ビッグデータを活用したAI(人工知能)機能に頼る取引が増えている。その一方で、AIは過去事例がないニュースに遭遇すると判断できないケースもあり、AIだけに依存すると「暴走」する恐れもある。リスクを取り合う為替取引の現場でどのようにAIが使われているのかを検証してみた。

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膨大なデータ処理

 この数年、金融市場では「クオンツ・トレーディング」という言葉が多く聞かれる。「クオンツ」とは数学的に高度なモデルを駆使して高い収益を生み出す手法で、為替など金融取引で多く用いられている。「クオンツ・トレーディング」には、理論駆動型とデータ駆動型の2種類ある。理論駆動型は文字通り経済・ファイナンス理論に基づくトレーディングモデルで、データ駆動型は特定の理論モデルに基づくことなく、データ解析によりパターンを発見するやり方で、過去3年ほどの間にAIを使ったモデルの開発が急速に進んでいる。

 このトレーディングに詳しい野村証券金融市場調査部の高田将成・クオンツ・ストラテジストは「最近は相場に影響を与える項目が膨大になっているため、人間では到底処理できない量になっている。取引の現場ではこれを瞬時に判断するにはAIの能力を借りるしかない」という。重要なのが、人間の場合は、ある時点で「買い」と判断すると、「売り」に判断を変更しなければならない状況になっても、以前の決定に引きずられて客観的な判断ができにくいという。いわゆる「宗旨替え」に対する抵抗感がある。AIの場合は、過去のパターンに合致すれば、以前の判断と関係なくドラスティックにデータだけに基づいた判断ができる。

 一方で、AIの判断は理論に基づいていないため、顧客に対する納得ある説明がしにくい面があるという。AIの応用は、製造業や医療関係では急速に進んでいるが、トレーディングの世界ではこの数年始まったばかりで、応用できる人材がまだ育っていない。最近は理系出身者が金融の世界に入り、金融工学やフィンテックが流行になりつつあるが、まだ開発ができる人材はごく少数でしかない。長期的に見てAIを使った取引とそうでない取引と比較して、AIを活用した取引が勝っているという証明ができるまでには、多くの人材を育成してトレーディングモデルを改良していかなければならない。


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