なぜ普通の中国人が海外進出するのか
私は深夜のマドリードで稼ぐ福建省出身の貧しい若者たちを目の当たりにして少なからず興奮した。うまく説明できないが、それまで一年半世界の各地でバラバラに見てきた中国人に関する様々な事象が一つの仮説に収斂してきたように思われたからである。
指導者、エリート、共産党員、富裕層、知識人以外の“普通の庶民”を中国語では“一般的老百姓(イーパンダラオバイシン)”と呼ぶ。1990年頃までは欧州で見かけた中国人は海外出張をしている共産党員や国営企業の幹部社員などの階層であるか、または団体旅行をしている富裕層であった。当時中国の普通の庶民を海外で見かけたという記憶がない。ところが2014年春以降に始めたバックパッカー旅ではおびただしい数の普通の中国人(庶民階層)が海外で出稼ぎしたり移住する実態を目撃してきた。
ビーチリゾートの中国人女性マッサージ集団
2014年6月、ギリシアのイオニア海にある高級リゾートのザキントス島の海岸。ビーチパラソルがならびデッキチェアーで日光浴する欧米人がバカンスを楽しんでいる。「中国伝統マッサージ30分、10ユーロ」と英語で書かれた画用紙サイズのボール紙の看板を持った十数人の中国女性がバカンス客一人一人に看板を見せながら「マッサージは如何?」と片言の英語で聞いて回っていた。
湖北省出身者達であった。いかにも田舎の垢抜けない感じの女性たちだ。みんなで同じ家に住んで共同生活していると言っていた。1990年代のテヘラン、アブダビ、ドバイなどの中東の都市には中国国営企業の非公式拠点が多数展開されていた。大半は個人名で小さなアパートを借りて現地常駐の中国人が数人で共同生活。駐在費用をカバーするため他の中国企業の出張者をアパートの簡易ベッドに寝かせて一泊500円程度を徴収していた。テヘランにあった解放軍系の有力企業は比較的広いアパートに簡易ベッドを20床以上並べて私的ホテル業兼レストランを運営していた。中国人は男性でも料理する習慣があるので食材を市場で仕入れ、中国から送ってもらう調味料・缶詰などを利用して若手の男性駐在員が家庭的中華料理をつくって駐在員や宿泊者に提供していた。中国本土からの出張者はこのような拠点を利用して出張費用を節約していた。