今回の米大統領選挙は「選挙におけるマーケティング戦略」を考える上で非常にエポック・メーキングな選挙だった。トランプ氏を勝利に導いたのは、終盤で多少のブレもあったが、やはり一貫したマーケティングと言える。
トランプへのアクセスを増やす
トランプの手法は明らかに「人々の怒り、不安、社会への不満を煽る」ことで最終的に自分への注目度を高めることだった。もちろんアンチ・トランプの動きも凄まじいものがあったが、それも結果的に「トランプへのアクセスを増やす」ことに役立った。
「葛藤は特にソーシャルメディアでの大きな売りになる」と指摘するのはジョージワシントン大学准教授、マイケル・コーンフィールド氏(Politics Moves Online: Campaigning and the Internet)。同教授はヒラリー・クリントン、ドナルド・トランプ二人のツイッター、フェイスブック、ユーチューブなどのソーシャルメディアの発言内容を分析。その結果「トランプは自分の言葉で語り、過激発言が多く、ヒラリーはおそらくはキャンペーンスタッフが書き込みを行なったと思われる、政治的主張が中心だった」と言う。どちらがよりパーソナルか、というのは明らかだ。
その結果、フェイスブック、ツイッター、インスタグラムを合わせたトランプへの「いいね!」は合計2270万、ヒラリーは1500万だった。ツイッターでは選挙前のトランプフォロワーは400万、現在は1060万。選挙期間中のトランプによるツイートは3万2800。一方のヒラリーは選挙前が100万、現在が810万、ツイート数は本人の名前のものが7260。フェイスブックでのトランプへの「いいね!」は1000万、ヒラリーは520万。インスタグラムでのフォロワーはトランプ220万に対しヒラリー180万。
ただし、ユーチューブではヒラリー優勢で、ヒラリーチャンネルの登録者6万4000に対しトランプは4万5000。ビデオの視聴回数もヒラリー1600万に対しトランプは800万だった。
これが何を意味するのかというと、ヒラリー支持者は演説や政策など、深いところで共鳴する人々が多く、一方のトランプは短くセンセーショナルなつぶやきなどにおいてリードしてきた。しかし、話題性やイメージの面ではより多くの露出がある方が人々の記憶に残りやすい。トランプのツイッターやフェイスブックはしばしば炎上したが、その炎上ぶりがメディアに取り上げられることでさらに視聴者を増やし、賛同も反対も合わせてより多くの注目を集める結果となった。
トランプのツイッターのマメさは驚くばかりだった。例えばフロリダ州での予備選。地元上院議員であるマルコ・ルビオ有利が伝えられており、ルビオ自身も選挙前に「フロリダを制する者が予備選を制する」と演説した。ところが結果はトランプ勝利。そこでトランプはすかさず「サンキュー、マルコ、その通りだ」とルビオ発言にツイートするのである。
また、トランプという人は自分のテレビ番組を持っていたりで、とにかく露出の多い人物だった。かねてから露悪的な発言が多く、批判も多い反面人気もあった。そういう自分の特徴を知り尽くしていたからこそ、暴言を繰り返しても自分のイメージが損なわれることはない、と知っていた。あまりの打たれ強さに「テフロン・ドン」というあだ名がついたほどだが、叩かれる=人気が増すことを知っていた。終盤になってややまともな態度を取り始めると途端に人気が下がったのを見て、路線変更を素早く行なった。