家族の露出も利用
次に、家族の露出。トランプのテレビ番組「アプレンティス」には審査員役で娘も出演していた。有名人の割に家族、孫に到るまで露出を惜しまなかったため、彼らが選挙応援に駆けつけると有名スターのように盛り上がった。もちろんヒラリー側も夫は元大統領、と抜群の露出はあるのだが、一家総出となるとトランプ側の迫力勝ちだろう。
また、テレビへの出演が多いため、良くも悪くも「自分の見せ方」を知っていたのがトランプだ。ヘルメットのような髪型、年齢の割にシワがなく血色の良い顔。憮然とした表情でも笑顔でも、テレビ画面に映る自分を知り尽くしており、豊かな表情を駆使していた。
対するヒラリーは、もちろん有名人であり誰もが顔を知っているが、どちらかというとニュースなどでスチール画面での登場が多かった。鉄仮面と評されるほどに無表情で強面。ところが今回の選挙戦で動画で登場すると、シワの多さや目の下のたるみなど、年齢を隠せない部分が多かった。相手が妙に生気に溢れているだけに、より劣化が目立ってしまった感がある。
結局のところ自分自身を「商品」として見せることが得意だったトランプのイメージ戦略に翻弄されたのが今回の選挙だった。人々は政策ではなくトランプというブランドに投票したのだ。
しかし、米国人が恐れるべきなのは現在起こっている抗議活動ではない。今の騒動は一種の怒りのはけ口を求めるもので、彼らの怒りは本来「トランプに投票した人々」に向けられるべきものだ。
本当に怖いのは、トランプが確約したアメリカの明るい未来「中国などに奪われた製造業を取り戻し、移民を放逐し、アメリカをアメリカ人の手に取り戻す。ワーキングクラスが豊かな中流となる」が実現できなかった時だ。期待を寄せただけに、トランプ支持者が裏切られた、と感じた時の反動は凄まじいものになるだろう。そうなれば現在の抗議デモの比ではない、国を挙げての反政府運動に発展する恐れがある。
現在抗議デモが起こっているのは、ほぼ全て「民主党が勝利した州」の都市部である。しかし期待が裏切られた人々が起こす抗議活動は全国に広がる、大規模なものとなるだろう。そうなれば大統領の罷免にも発展するかも知れず、トランプがどれだけの手腕を発揮できるかが国の安定という問題にも深く関わってくる。
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