ここミューア・ウッズ国定公園では80m近い木々を見ることができます。太さは驚くほどのものではないし、樹齢も若い部類に入るレッドウッドではありますが、枯れた親木を中心に若い木が円をなしていたり、また複雑に絡む枝の造形は人の目を惹きつけます。
この国定公園、歴史を遡ると1903年にカリフォルニア州選出の下院議員のウィリアム・ケントが、この山域数百ヘクタールのレッドウッドの森を自費で買い上げて、政府に寄付したのがはじまりと言われています。
政府はこの森を「ケントの森国定記念物」としようとしましたが、ケント氏は固辞して尊敬するジョン・ミューアの名前をとり、「ミューアの森国定記念物」になったというお話のようです。
森の中を歩いていると朽ち果てたセコイヤがあり、断面をみるとその直径の長さに驚かされます。また非常に厚い樹皮に覆われているのもレッドウッドの特徴かと思います。
この樹皮は多くのタンニンを含み、病原菌や白蟻の侵入を防ぐ力があります。また、他の広葉樹が燃え尽きてしまうような山火事からも木の内部を守る働きも兼ねているというから、長い歴史を生きてきたからこそ育まれた命の神秘を感じます。
森の中のトレイルを歩きながら数百年のロマンに思いを馳せて、今までの旅路を静かな空間で思い出していると、ぞろぞろと観光客がやってきました。10時過ぎになると、駐車場もいっぱいになり、賑やかな空間へと変わっていきます。
もう僕が望んでいた空間ではなくなったと、森に別れを告げて宿へと戻りました。
「自然破壊は人間が自分の首を絞めているようなものだ」とどなたかが仰っておりましたが、その実感を強く感じたひと時であり、この旅での1つ大きな収穫でもありました。
歴史を知って旅をすると、思いを馳せることが多く、学びも多いです。カリフォルニアに行く機会がある時は、是非このコラムを思い出して頂けると幸いです。
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