2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年1月31日

 元WTO上級委員会委員長のジェイムス・バッカス元米下院議員は、1月4日付のウォールストリート・ジャーナル紙で、トランプ政権はWTO上の義務をどうするのかはっきりしないとして、世界貿易の将来について懸念を表明しています。論説の論旨は次の通りです。

(iStock)

 トランプは商務長官にロス、通商代表にライトハイザー、新設の国家貿易会議議長にナヴァロを指名した。関税を引き上げるとの公約に真剣であることを示唆する。移行チームはすべての輸入に10%の追加関税もありうるとしている。

 米大統領は議会の承認なしに貿易措置を驚くほど自由にとれる。国内裁判所で挑戦があっても、新政権は勝つだろう。しかし、本当の戦いはWTOの判事を前にしての国際的訴訟である。WTO協定上、米国は多くの貿易品目に関税上の約束をしており、これは法的に拘束力がある。
全輸入品への10%の関税は、この約束に反する。中国からの輸入品への45%関税、メキシコからの輸入品への30%関税もそうである。次期政権がWTOの義務をどう考えているのか、不明である。トランプはWTO脱退もありうるとしている。脱退まで行かないとしても、米国の一方的な措置は他国の報復を招き、世界貿易システムは崩壊しよう。

 追加関税は影響を受ける国からのWTO提訴につながる。米国は効果的な防御をなし得ない。米国がWTOの裁定を受け入れない場合、これらの国はこれまでの譲許を撤回できる。米国は毎年、数十億ドルの貿易を失うことになる。

 米国は貿易の調整措置をとりうる。中国との関係では、鉄鋼生産能力の過剰など、多くの問題がある。しかしこれらの貿易問題がWTOの法的枠組みの中で追求されるのか、WTOの枠外でなされるのかが問題である。WTOの枠外であれば、米国はWTOの訴えで負ける。

 米国はアンチ・ダンピング税を課しうる。また輸入品への補助金については、米国はそれをやめるようにWTOに訴えられるし、相殺関税をかけられる。しかしこれらの行為が国際的に合法であるためには、米国の行為はWTOの規則と整合的でなければならない。米国の初期の行動は、アンチ・ダンピングと相殺関税についての国内規則を厳しくすることかも知れない。然しこれもWTOに訴えられ、WTO違反とされる可能性がある。

 いずれにせよ、米国の措置の主要な標的は中国になろう。2015年の米国の対中赤字は3660億ドルにもなる。中国は報復を検討するだろう。米国は鉄鋼、アルミニウム、携帯電話、コンピューター、おもちゃを標的にする可能性がある。中国は自動車、航空機、大豆、豚肉を標的にしうる。さらに、独占禁止法の利用、知的財産権の無視もありうる。

 米国の貿易関連措置、他国の報復措置はWTOでの難しい紛争になる。貿易紛争を非政治化するのがWTOの目的であったが、この状況でWTOの紛争処理は機能するのか。WTOの上級審は、多数の政治的に爆発しかねない貿易紛争に直面する。WTOの上級審の独立、公平な司法の役割が、貿易上の法の支配の維持のためにこれまで以上に重要である。

出 典:James Bacchus ‘Trump’s Challenge to the WTO’(Wall Street Journal, January 4, 2017)
http://www.wsj.com/articles/trumps-challenge-to-the-wto-1483551994


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